砂の国のオアシス

1時間ほど歩いた頃、ようやく町に着いた。
今日は市場まで行く必要はない。

私はあたりをキョロキョロ見渡しながら、目的のものを探し歩いた。

えーっと、あれあれ・・あ・・あった!
5分もかからずに、お金を引き下ろす機械を見つけることができた。
幸先良いスタートに、ひとまずホッとする。

いやいや、喜ぶのはまだ早い。
クレジットカードを使ってお金を引き出すことに無事成功したら、ホッとしよう。


私はドキドキしながら機械の前に立って、ひとまず深呼吸をひとつして心を落ち着かせると、メニュー画面を凝視した。

「お金を引き出す」のところに指を当てると、『カードをお入れください』という機械アナウンスが聞こえてきた。

よし。ここまで順調!
ていうか、ここでつまづく人は、そうそういないか。

私はハハッと空笑いをしながら、バッグを漁って、クレジットカードを取り出した。

少し震える手でカードを入れる。
すんなりカードが入って、また安心した。

『ピンコードをご入力ください』というアナウンスにドキッとしながら、管理センターのオジサンの説明を思い出す。

えっと、最初は・・・。
「83372nk」と画面を押して、グリーンのボタンを押す。
ちょっと間があった後、『もう一度ピンコードをご入力ください』というアナウンスが聞こえてきた。

え!カイルにもう知られた?
それともコード間違ってる?

焦りながら必死に思い出した私は、「あ!」と叫んだ。

そして「83372NK」と画面を押して、グリーンのボタンを押す。
すると・・・『右手をこちらへ押し当ててください』というアナウンスが聞こえて、腰が抜けそうになるくらいホッとした。

・・・そうだった。
「数字の後のアルファベッドは大文字です」って、オジサン言ってたよね。
と思いながら、私はアナウンスに従って、右手を画面に押し当てると、画面がスキャンする形で指紋の照合を始めた。

ほんの数秒でそれが終わると、画面に数字が出てきた。

この数字は毎回変わる上に、一度ミスったら、また最初に戻るってオジサン言ってたよね。
というわけで、私は出てきた数字「1719054」を慎重に画面に打って、二回確認した後、グリーンのボタンを押すと、今度は『左手をこちらへ押し当ててください』というアナウンスが聞こえた。

うーめんどくさい。
でも、これでもうすぐ終わる。

私は右手同様、左手を画面に押し当てると、画面が左手の指紋照合を始めた。
それもすぐ終わると、最後の両目の照合も無事終わって、やっと『お引き出しの金額をご入力ください』と機械に言われた。

よしっ!ひとまず無事にここまで来れた!!

次は・・・いくら引き出そうか。
うーんと考えて、とりあえず「100,000」と入力後、Girda(ギルダ)のところを押して、グリーンのボタンを押した。

ピッと機械音が鳴ると、下からお札が落ちてくるザーッという音が聞こえてきた。

よ・・・よしっ!よくできた、私っ!!
と自分を褒めつつ、お金とカードを取って、その場を後にした。





お金は手に入った。
さてどこ行くよ、私・・・。

イシュタールの国内は、国王(リ)であるカイルの手にかかれば、あっけなく見つけられそうな気がする。
じゃあ国外に出たほうがいい?
でも10万ギルダくらいでどこに行ける?
やっぱり近場?
でも陸続きの隣国は、ここより治安が良くないってテオが言ってたっけ。
特に今は、西の砂漠の向こうの国々へは、絶対行かない方がいい。
そっちの情勢を知ってて助かった。
これもカイルのおかげ・・・。

私は立ち止まると、顔をブンブンと横にふった。

この世界は英語が世界共通語だから、みんな英語を話せるとテオは言ってたよね。
じゃあ言葉が通じないって問題は、どこへ行ってもないってことだ。

私は、「とりあえず遠くへ行こう」とつぶやくと、タクシー乗り場を探し始めた。



テクテク歩くこと10分くらいで、タクシーを見つけた。
この世界でタクシーに乗るのは初めてだけど、今まで町へ出たときに、タクシーに乗ってる人たちは何度か見かけたことがある。
それを見た限り、しくみはあっちの世界とどうやら同じみたいだ。

私は待っているタクシーの先頭へ行くと、後部ドアを開けた。
自動じゃなかったよね、うん。

そしてちょこんと座ると、運転手さんが「お嬢さん、どちらへ?」と聞いてきた。

「セフィラ国際空港までお願いします」
「はいよ!」と運転手さん、というより運ちゃんって感じのオジサンは言うと、車をスタートさせた。



「嬢ちゃんはシナ人かい?」
「へ!?あ・・・あ、まぁ、そうです、はい」

そういえば、カイルにも「ダイワかシナ国の者か」って聞かれたことがあったよね。
あれから部屋にある本で、この世界の地図を見て、ダイワ国とシナ国というのを確認したことがある。

あそこへ行けば、外見上も浮くことはない・・・?




それから空港へ着くまでの約15分の間、オジサンは時々私に話しかけてくれた。
どうやら子どもの私が一人でタクシーに乗ってると勘違いをしていたみたいで・・・。
私のことを偉いと思いつつ、警察へ行った方がいいのかとも思ったみたいで!

いやそれ、別の意味で困るから!!
ていうか、私は19歳の未成年だけど、もう初体験も済ませた大人だし!!

・・・カイル。

ダメだ!
カイルのこと考えちゃダメダメ!!

ふと気を緩めた瞬間に、私の心の中にカイルが入ってくること・・・もうやめないと。



へぇ。イシュタール(ここ)にも「ラストミニット」あるんだ。
ラッキーと思いながら、私は「ラストミニット」のコーナーへと歩いて行った。

まずは、「チケットオンリー」のボートを探して・・・あった。
「出発1週間前」からざっと目で追って、「出発直前」の項目を見つけた私は、そこからジーッと見始めた。

あ。「Sina(シナ)」行きがある!

「Daiwa(ダイワ)」もあったけど、私はシナへ行くことに決めた。
タクシーの運ちゃんに「シナ人?」と聞かれた上に、シナ行きのほうが出発時間が迫っているせいか、ダイワより値段も安くなってるのが大きな決め手だ。

私は隣のカウンターへ行くと、シナ行きのチケットを買った。


1200ギルダが450ギルダにディスカウントって・・・得した!!
ラッキーと思いながら、搭乗ゲートのほうへ並ぶ。
ここまで割とスムーズに来れた。
てことは、カイルは私がいなくなったことを、まだ知らないんだ。
やっぱり私って、その程度の存在・・・。

と思いつつ、ベルトコンベアーに手荷物を置いて、金属探知機と思われるゲートをくぐったそのとき・・・。

ウ~ウ~ウ~!!!!
というものすごく大きなサイレン音が、周囲に鳴り響いた。

・・・え!?

「何この音!」
「うるさい!」というブーイングが、あちこちから聞こえてくる。

ホント、うるさいんだけど・・・でもこの音、私がゲートをくぐった瞬間鳴った・・・よね。

あぁなんか嫌な予感してきた・・・!


それからすぐにサイレンは止んだ。
よかったと思ったのもつかの間、今度は『緊急事態発生。シャッターが閉まります』というアナウンスが何度も繰り返される中、搭乗ゲートの出入口のドアのシャッターが閉まり始めた!!

なな・・・・なに、これ。

ひとり茫然とたたずんでいる私とは裏腹に、周囲の搭乗客たちは、パニック状態で空港の係員さんたちに詰め寄っている。

「ちょっと!緊急事態って何よ!」
「シャッター閉まったぞ!」
「テロか!?」
「私たち大丈夫なの?」

方々から聞こえてくる声と質問に、係員たちは「シャッターはすぐ開きます。もう少しこのままお待ちください」と落ち着いた声で言うだけだ。

そして私の両サイドに、係員が立ちはだかった。

「ミス。パスポートを」
「あぁはいっ」

出国カウンターはもう少し先なのに、なぜここで見せないといけないんだろうと思いながら、私は左にいる係員にパスポートを見せた。

係員は、まずパスポートの表を見て怪訝な顔をしつつ、名前や写真が載ってるページを開けて見た。

その係員は、驚いたというか、「ゲッ!」みたいな顔を一瞬だけすると、すぐ無表情に戻って、私の右にいる係員にパスポートを手渡した。

右の係員も同じようなリアクションをすると、二人でヒソヒソと話し始めた。

「ミス。恐れ入りますがその・・・耳を見せていただけますでしょうか」
「・・・は?耳、ですか」
「あぁはいっ!あ、左側だけで結構でございます」

なーんかこの人たち、急に恐縮してきたみたいなんだけど。
と思いながら私が左耳を見せると、二人はまたヒソヒソと話し始めた。

なーんか・・・嫌な予感がする。
もしかして、見つかった・・・とか。

「ミス。あなたは私たちにご同行願います」
「へ!?わわ、わたし、金属のもの持ってない、ですよ?ベルトもしてない・・・」
「恐れ入りますが、こちらへ」
「・・・・・はぃ」

有無を言わさない状態で、私が別室へと連れて行かれた頃には、シャッターが開き始めた。

・・・カイルに見つかった。

『シャッターが開きます。皆様のご協力に感謝いたします。ありがとうございました』というアナウンスが、私の耳にむなしく響いた。




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