砂の国のオアシス
12
トランクって・・さっき見えた黒い車に「乗せられる」の?
てことは、ここからまた遠くへ移動するんだ。
どこ行くんだろう。
カイルはもう、私がいないって気づいてる?
それともカイル・・・。
大丈夫。あの人は生きてる。
ピンピンしてるはず!
そして私を助けに来てくれる。必ず。絶対。
ウィンがゆっくり一歩進んだそのとき。
「何やら俺の女が随分と派手な宴に呼ばれたようだが、生憎これは無駄に目立つ事が嫌いだ。早々に連れて帰らせてもらうぞ」という声が聞こえてきた。
私は目をしっかり開けて、数メートル先にいるカイルを見た。
さっきの爆発の影響で、カイルの服は土と埃でボロボロだ。
砂色の髪も、顔も、かなり埃をかぶっている。
てか、私もそうだよね。
そしてカイルのすみれ色の瞳は、怒りでギラついてる。
全身からとんでもなく怒りのオーラを発しているのが、距離がある私でも察することができる。
元々国王(リ)としての威厳がある人だ。
それに怒りが加われば、怖さが何万倍にも増すってことか。
ウィンは少し、そしてイングリットさんは、「ひっ」と小声で叫びながら、思いきり一歩後ずさった。
「派手というより物騒の間違いではないか」
「エイチさん!」
「どちらでも良い」とカイルは言うと、フンと鼻で笑った。
「ウィン・デルボー。この・・・裏切者!」と言ったエイチさんの声は、とても悲しそうに聞こえた。
言われたウィンは、私を抱く手に力を込める。
あぁよかった。
この人にもまだ感情はあるんだと、ヘンなところでホッとする。
それが良心かどうかはまだ分からないけど。
ウィンを見上げるとニヤッと笑っていた。
う。堕天使の微笑み!?
やっぱりこの人に良心はない・・・?
「敵を欺くには、まず味方から。そう教えてくれたのはあなたでしょう?隊長」
「・・・そうだったな、ルシファー」と、エイチさんはうつむいたまま淡々と言うと、顔を上げてフッと笑った。
そのとき、「そこから一歩でも動くと、この娘を殺す!」とイングリットさんが言って、私に銃口を向けていた。
「母さん、それだと俺にも当たるんだけど」
「あ・・とにかく!この娘をサッサと車に乗せなさい!」とイングリットさんはやけ気味に叫ぶと、銃口を車のほうにふって示す。
「どのみちあんたたちに勝ち目はない!見なさい、ここにいる我が同胞たちを!」
とイングリットさんに言われて初めて気がついた。
カイルたちの背後に銃口を向けた人が、ざっと見積もっただけでも20人はいることを。
対して、カイルたちは他にエイチさんとトールセン、合計3人しかいない。
これはイングリットさんの言うとおり、勝ち目がない・・・。
一瞬絶望的になった私だけど、カイルたちはいまだに不敵な笑みを浮かべたままだ。
それを見てたら、絶望感はどこかへ行った。
「とりあえず、その剣をこっちに渡してもらおう」
「そうよ!ウィン、国王お気に入りのあの剣を使って、お気に入りの娘を刺し殺してあげなさい!」
え?でも紫龍剣じゃあ、私を殺せない。
そしてウィンはそのことを知っているはず・・・そっか。
「それがおまえの望みなら」とカイルが言ったのと同時に、「ナギサ様、下ろします」とウィンがコソッとつぶやいた。
「え?あ、はいっ!」と私が返事をしたのと同時に、カイルが「主を護れ!」と言いながら、紫龍剣をこっちに投げてきた。
え!?うそっ!!
紫龍剣から紫の炎が出てる!?
しかも剣の形が・・・龍みたいに見える。
と思ったら、たちまち大きくなって、立っている私の目の前の地面にストンと刺さった。
そして今、紫龍剣は私の周囲をぐるっと取り囲んで私の盾となっている。
そして腰を抜かした私は、地面に座り込んでいた。
「ナギサ様。先程はいろいろ失礼なことをして申し訳ありませんでした」と言うウィンの声が、盾の向こうから聞こえてきた。
「あ・・ううん」
「あの時は、何が起こっても、必ずナギサ様の命を護るようにとカイル様から命を受けておりました故。先にも申しました通り、あの御方はあの程度のダメージを受けても死にませんから」
「そ、っか・・・」
やっぱり妙に納得しちゃうんだけど。ははっ。
「カイル様には、この場で敵と落ち合うとあらかじめ伝えておいたので、必ずいらっしゃると分かっていました。ひとまずここにいれば安全です。他の者はこの剣に触ることもできません。御安心ください」
「うん・・・」
「カイル様がいらっしゃるまで、くれぐれも紫龍剣を抜かないでください」
「わ、分かった。あの、ウィン!」
「はい、ナギサ様」
「ゴライブ(ありがとう)。気をつけて」
「はい」
ウィンの気配が遠ざかっていく。
・・・よかった。
ウィンに良心があって。
そして・・・疑ってごめんなさい。
あぁ。ものすごい銃撃音が鳴り続けてる。
ちょっと好奇心が疼いた私は、盾の横からヒョコッと覗いてみた。
こんな銃撃シーンなんて、アクション映画でしか観たことないって言うのに、まさか自分がその場に居合わせるなんて・・・。
二度とない経験、ていうか、二度と経験したくない!
私をトランクに乗せようとしていた黒い車のタイヤは、見事に全部空気が抜けてる。
それに窓ガラスも粉々状態。
中に乗ってた人たちは、外に出て「応戦」している。
それより・・・思ったより敵の数は多いけど、カイルたちはみんな無傷(でも爆発の影響で、外見は元からボロボロ)なのに対して、敵は一人、また一人と確実に倒れていってる。
「今の俺は人生最大に機嫌が悪い」というカイルの声が聞こえてきた。
あぁ分かるー。
その気持ち、モロ声にでてるし。
こんな時なのに、笑いが出そうになったけど、カイルの後ろを狙って撃とうとしている敵を見た私は、気づけば立ち上がって紫龍剣の柄を持っていた。
途端に、私でも持てる大きさと軽さに縮んだ紫龍剣を持つと、「カイルッ!!!」と叫びながらそれを投げた。
お願い紫龍剣、カイルを護って!!
私の声に気づいたカイルは、「な・・・ナギサ!」と叫びながらも紫龍剣を受け取ると、そのとき存在に気づいた敵の腕を斬りつけた。
そのとき、パンという銃声が鳴り響いた。
・・・・・・え、なに・・・・・・。
「おまえがいけないんだ!おまえさえいなければ、私たちは祖国を追われることもなく、王宮で豊かに暮らせた!おまえのせいだ!!おまえだけのうのうと幸せに暮らすことを、私は生涯許さない!!」
私の体がグラッと揺れた・・気がした。
ううん、揺れてる?
私・・・倒れるの・・・?
「ナギサ?ナギサ・・・ナギサーッ!!」
カイルが私のほうへ駆け寄ってくるのが、かすかに見える。
あぁ私・・・撃たれたんだ・・・だから・・・痛いのか。
油断しちゃった。はは・・・・・・。
「まずはおまえが一番大事にしているらしいこの娘から殺してやる!死ね、うっ」
カイルが走りながら紫龍剣を投げた。
それはヒュンと私の横をすり抜けると、後ろへ行き・・・。
「ぎゃー!」と言うさっきの女の人の叫び声が聞こえた。
カイルは銃弾をものともせず、一直線に私に向かって来ている。
カイル、私、だいじょうぶだよ。
急がなくていい・・・。
そう言いたいのに声が出ない。
カイルが私の前に来ると、私をそっと抱き上げてくれた。
いつの間にか紫龍剣が私たちの前に「立って」、盾を作る。
「ナギサ!ナギサッ!!」
「カィ・・・・・・ね、まも・・れた、かな」
「大丈夫。大丈夫だ、ナギサ・・・くそっ、出血が多い」
意識が遠のく。
体から力も抜けていく。
でもよかった・・・。
最後に・・・愛する人と一緒にいれて。
このままカイルが・・・みんなが無事であります・・・ように・・・。
「ナギサ?ナギサ!目を覚ませ、ナギサ!!」
「アイ・・・・・・・・・で」
カイル、愛してる。泣かないで。
そう言いたかったのに、声が出なかった。
そして私の手は力なく落とされた。
カイル。
あなたが流す涙を拭くことができなくて・・・ごめんね。
何度も「ナギサ!」と叫ぶカイルの声は、意識がなくなった私には、もう聞こえていなかった。
てことは、ここからまた遠くへ移動するんだ。
どこ行くんだろう。
カイルはもう、私がいないって気づいてる?
それともカイル・・・。
大丈夫。あの人は生きてる。
ピンピンしてるはず!
そして私を助けに来てくれる。必ず。絶対。
ウィンがゆっくり一歩進んだそのとき。
「何やら俺の女が随分と派手な宴に呼ばれたようだが、生憎これは無駄に目立つ事が嫌いだ。早々に連れて帰らせてもらうぞ」という声が聞こえてきた。
私は目をしっかり開けて、数メートル先にいるカイルを見た。
さっきの爆発の影響で、カイルの服は土と埃でボロボロだ。
砂色の髪も、顔も、かなり埃をかぶっている。
てか、私もそうだよね。
そしてカイルのすみれ色の瞳は、怒りでギラついてる。
全身からとんでもなく怒りのオーラを発しているのが、距離がある私でも察することができる。
元々国王(リ)としての威厳がある人だ。
それに怒りが加われば、怖さが何万倍にも増すってことか。
ウィンは少し、そしてイングリットさんは、「ひっ」と小声で叫びながら、思いきり一歩後ずさった。
「派手というより物騒の間違いではないか」
「エイチさん!」
「どちらでも良い」とカイルは言うと、フンと鼻で笑った。
「ウィン・デルボー。この・・・裏切者!」と言ったエイチさんの声は、とても悲しそうに聞こえた。
言われたウィンは、私を抱く手に力を込める。
あぁよかった。
この人にもまだ感情はあるんだと、ヘンなところでホッとする。
それが良心かどうかはまだ分からないけど。
ウィンを見上げるとニヤッと笑っていた。
う。堕天使の微笑み!?
やっぱりこの人に良心はない・・・?
「敵を欺くには、まず味方から。そう教えてくれたのはあなたでしょう?隊長」
「・・・そうだったな、ルシファー」と、エイチさんはうつむいたまま淡々と言うと、顔を上げてフッと笑った。
そのとき、「そこから一歩でも動くと、この娘を殺す!」とイングリットさんが言って、私に銃口を向けていた。
「母さん、それだと俺にも当たるんだけど」
「あ・・とにかく!この娘をサッサと車に乗せなさい!」とイングリットさんはやけ気味に叫ぶと、銃口を車のほうにふって示す。
「どのみちあんたたちに勝ち目はない!見なさい、ここにいる我が同胞たちを!」
とイングリットさんに言われて初めて気がついた。
カイルたちの背後に銃口を向けた人が、ざっと見積もっただけでも20人はいることを。
対して、カイルたちは他にエイチさんとトールセン、合計3人しかいない。
これはイングリットさんの言うとおり、勝ち目がない・・・。
一瞬絶望的になった私だけど、カイルたちはいまだに不敵な笑みを浮かべたままだ。
それを見てたら、絶望感はどこかへ行った。
「とりあえず、その剣をこっちに渡してもらおう」
「そうよ!ウィン、国王お気に入りのあの剣を使って、お気に入りの娘を刺し殺してあげなさい!」
え?でも紫龍剣じゃあ、私を殺せない。
そしてウィンはそのことを知っているはず・・・そっか。
「それがおまえの望みなら」とカイルが言ったのと同時に、「ナギサ様、下ろします」とウィンがコソッとつぶやいた。
「え?あ、はいっ!」と私が返事をしたのと同時に、カイルが「主を護れ!」と言いながら、紫龍剣をこっちに投げてきた。
え!?うそっ!!
紫龍剣から紫の炎が出てる!?
しかも剣の形が・・・龍みたいに見える。
と思ったら、たちまち大きくなって、立っている私の目の前の地面にストンと刺さった。
そして今、紫龍剣は私の周囲をぐるっと取り囲んで私の盾となっている。
そして腰を抜かした私は、地面に座り込んでいた。
「ナギサ様。先程はいろいろ失礼なことをして申し訳ありませんでした」と言うウィンの声が、盾の向こうから聞こえてきた。
「あ・・ううん」
「あの時は、何が起こっても、必ずナギサ様の命を護るようにとカイル様から命を受けておりました故。先にも申しました通り、あの御方はあの程度のダメージを受けても死にませんから」
「そ、っか・・・」
やっぱり妙に納得しちゃうんだけど。ははっ。
「カイル様には、この場で敵と落ち合うとあらかじめ伝えておいたので、必ずいらっしゃると分かっていました。ひとまずここにいれば安全です。他の者はこの剣に触ることもできません。御安心ください」
「うん・・・」
「カイル様がいらっしゃるまで、くれぐれも紫龍剣を抜かないでください」
「わ、分かった。あの、ウィン!」
「はい、ナギサ様」
「ゴライブ(ありがとう)。気をつけて」
「はい」
ウィンの気配が遠ざかっていく。
・・・よかった。
ウィンに良心があって。
そして・・・疑ってごめんなさい。
あぁ。ものすごい銃撃音が鳴り続けてる。
ちょっと好奇心が疼いた私は、盾の横からヒョコッと覗いてみた。
こんな銃撃シーンなんて、アクション映画でしか観たことないって言うのに、まさか自分がその場に居合わせるなんて・・・。
二度とない経験、ていうか、二度と経験したくない!
私をトランクに乗せようとしていた黒い車のタイヤは、見事に全部空気が抜けてる。
それに窓ガラスも粉々状態。
中に乗ってた人たちは、外に出て「応戦」している。
それより・・・思ったより敵の数は多いけど、カイルたちはみんな無傷(でも爆発の影響で、外見は元からボロボロ)なのに対して、敵は一人、また一人と確実に倒れていってる。
「今の俺は人生最大に機嫌が悪い」というカイルの声が聞こえてきた。
あぁ分かるー。
その気持ち、モロ声にでてるし。
こんな時なのに、笑いが出そうになったけど、カイルの後ろを狙って撃とうとしている敵を見た私は、気づけば立ち上がって紫龍剣の柄を持っていた。
途端に、私でも持てる大きさと軽さに縮んだ紫龍剣を持つと、「カイルッ!!!」と叫びながらそれを投げた。
お願い紫龍剣、カイルを護って!!
私の声に気づいたカイルは、「な・・・ナギサ!」と叫びながらも紫龍剣を受け取ると、そのとき存在に気づいた敵の腕を斬りつけた。
そのとき、パンという銃声が鳴り響いた。
・・・・・・え、なに・・・・・・。
「おまえがいけないんだ!おまえさえいなければ、私たちは祖国を追われることもなく、王宮で豊かに暮らせた!おまえのせいだ!!おまえだけのうのうと幸せに暮らすことを、私は生涯許さない!!」
私の体がグラッと揺れた・・気がした。
ううん、揺れてる?
私・・・倒れるの・・・?
「ナギサ?ナギサ・・・ナギサーッ!!」
カイルが私のほうへ駆け寄ってくるのが、かすかに見える。
あぁ私・・・撃たれたんだ・・・だから・・・痛いのか。
油断しちゃった。はは・・・・・・。
「まずはおまえが一番大事にしているらしいこの娘から殺してやる!死ね、うっ」
カイルが走りながら紫龍剣を投げた。
それはヒュンと私の横をすり抜けると、後ろへ行き・・・。
「ぎゃー!」と言うさっきの女の人の叫び声が聞こえた。
カイルは銃弾をものともせず、一直線に私に向かって来ている。
カイル、私、だいじょうぶだよ。
急がなくていい・・・。
そう言いたいのに声が出ない。
カイルが私の前に来ると、私をそっと抱き上げてくれた。
いつの間にか紫龍剣が私たちの前に「立って」、盾を作る。
「ナギサ!ナギサッ!!」
「カィ・・・・・・ね、まも・・れた、かな」
「大丈夫。大丈夫だ、ナギサ・・・くそっ、出血が多い」
意識が遠のく。
体から力も抜けていく。
でもよかった・・・。
最後に・・・愛する人と一緒にいれて。
このままカイルが・・・みんなが無事であります・・・ように・・・。
「ナギサ?ナギサ!目を覚ませ、ナギサ!!」
「アイ・・・・・・・・・で」
カイル、愛してる。泣かないで。
そう言いたかったのに、声が出なかった。
そして私の手は力なく落とされた。
カイル。
あなたが流す涙を拭くことができなくて・・・ごめんね。
何度も「ナギサ!」と叫ぶカイルの声は、意識がなくなった私には、もう聞こえていなかった。