A voiceprint
1章 yumikaと黒川晋の悲劇

1 伝説の歌姫 yumika

 yumikaのヒット曲は全部黒川晋が手がけたものであった。

 デビュー当時からすべての曲がベスト3に入り、少なくともアルバムはミリオンセラーとなっていた。
 
 そしてyumika自信が伝説であった。

 雑誌のインタビューをはじめ、マスコミには一切出てこない。テレビやラジオにさえ出演しない。その徹底ぶりは年末のレコード大賞や歌合戦番組出場の辞退がすべてを物語っている。事務所が圧力をかけているわけではなく、戦略というわけでもない。

 yumikaは人と話すのが苦手で、マスコミなどもってのほかであった。

 黒川がとあるペンションでyumikaを見つけたという。雨の中凍えるようにしてペンションの前でかがんで口ずさんでいる少女yumika。あまりにも美しい声と姿に魅入られた黒川は、両親が自殺して身寄りのない彼女の世話をすると同時に自分の曲で歌うように説得した。
 
 yumikaは歌手になる条件として
・マスコミに一切出なくて良い。
・プライベートは誰も触れないようにする。
・スケジュールなどはすべて黒川を通す。

 という約束を求めたのである。

 一度三面記事でyumikaのプレイベート写真が掲載されたときyumikaは引退を表明し、それに怒りを感じた数千人のファンが一斉に出版社に押しかけ、これからはプライベートは一切出さないと約束させた経緯がある。黒川も今回が最後で、次に掲載した場合は訴えることを表明し誰もyumikaの実際の人間像について話題にしなくなった。そして噂が噂を呼び、神格化した彼女は「伝説の歌姫」と呼ばれるようになった。

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