A voiceprint
 3時間ほど車を走らせて別荘に着いた。あたりは暗くなってきており、しかも雨が強く降っている。車を止めてすぐさまドアを開ける。で、鍵がかかっていない。やはりyumikaはこの場所に来ている。そう思った黒川は中に入ると大きな声でyumikaを呼ぶ。

 「yumika!お待たせ。いろいろ心配かけたなー。」
 返事はないが、yumikaの靴があるのも確認している。
 
 「yumika?おーい、yumika?」
 yumikaは出てこなかった。二階にいるのだろうと思って、奥の通路を抜け二階に続く階段へ向かおうとしたときにyumikaが座っているのがわかった。階段の横下からyumikaの足がはみ出ていたからである。
 
 「yumika、やっぱりここだったんだね。yumika。心配かけてごめん。」
 そう話しながら階段の正面に向かう。

 階段の真下からyumikaを見る。 座わってはいるが、笑顔のような、切ないような顔で一点を見つめているyumika。しかし動くことはない。すぐ傍には手紙がおいてある。黒川はすぐに異変に気づいた。

 「おい、yumikaっ!おいっ!yumikaぁ・・・あああああああああああっ!」

 外はさらに雨が激しく振り出して雷が不気味にyumikaの顔を捉えた。

 黒川はyumikaを抱えて階段を上る。そして部屋に入るとベッドに彼女を寝かせ、頭をなでてあげる。そしていつものようにおでこにキスをする。すでに冷たくて硬直していたがどことなく温かみがある表情であった。

 もう一度階段のところまで行き、その場に腰掛け手紙を開ける。そして読み始めるとそこで初めて涙がこぼれた。止めたくても止めることができず何度も鼻をすすった。すべてを読み終えてもまた読み返す。何度も何度も。

 しばらくして階段を降りるとそのまま別荘を出る。ある決意を固めて・・・。

 
 

 


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