A voiceprint
 何度か口ずさんでいるが、曲は簡単なはずなのに歌詞が詰まっていて早いため、早口言葉ができない感じで月子はしっかりと歌詞を歌えないでいた。

 「何か、今度のkumiの歌難しいわ。」
 「ちょっとテンポ早いから、歌詞がなぁ。」
 「そうなのよ。」
 「それにしても来週はnatuの新作が出るし、今年はどっちが大賞取るんだろうな?」
 「まぁいいじゃない、どっちでも。私、どっちも同じくらい好きだから。」
 「ま、いいんだけどさ。でも正直、月子はyumikaが一番好きだろ?」
 「うん。まぁね。」
 「だって、月子の声ってさあ、すげぇyumikaに似てるもんなぁ。」
 「うーん・・・。」
 「歌うまいしな・・・。月子が無事退院したらまずはカラオケだな。すげぇ聞きたいよ。」
 「でもドナーが見つかんないから、いつ退院出来るかわかんないし。」
 「奇跡の女だからなぁ。」
 「そうそう、奇跡のね。あーあ・・・。」


 そこへちょうど担当看護師の立花が入ってくる。
 「月子ちゃんどう?」
 「はい、大丈夫よ。元気元気。」
 「はーい。じゃそろそろお食事になりますからね。」
 
 すると翔二は立花に真剣そうな顔で聞く。
 「ねぇ、立花さん。」
 「はい、何ですか?」
 「ドナーってそろそろ見つからないですかねぇ。」
 「そうねぇ。・・・でも、濱野さんの場合、本当に合致するような心臓も血液も稀少なんですよ、本当に。」
 「奇跡の女だからなぁ。・・・」

 ちょっと困ったような表情の立花を察してすぐに月子は明るく振舞う。
 「しょうがないよ。気長に待たなきゃ・・・ね。」
 「でも、もしそれが50年とかなら待てないぜ。俺もさすがに。」
 「立派なおばあちゃんになっちゃうじゃない。大丈夫それまで生きてないわよ。」
 「月子ちゃんそんなこと言わないで待ちましょう。きっと大丈夫よ。奇跡の女なんでしょ。」
 「そうね。私って奇跡の女だから。フフフ。」
 「まったく月子はノー天気というか・・・。」
 「ごめんごめん。」

 翔二はあきれつつも笑顔になる。こういう前向きなところが自分も元気をもらっているようで、彼女のことがやはり好きなのだった。
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