A voiceprint
 「じゃあ、君はここの会社の救世主なんだねぇ。」
 「いいえ、僕は別に。本当のところ、先輩の笹野さんや黒川さんの跡を継いでま
とめているだけなんですよ。」

 「良太、私の後を継ぐと言っても、晋が消えてしまってからは本当に君の力なし
ではあり得なかったんだ。そして、園田社長の力添えもなければ、経営自体が厳し
かったですしね。」
 「いやいや。・・・ただ去年の事件は驚いていますよ。黒川君が逮捕された後、あの歌手の子もどこかへ行方をくらましてって・・・まさに前代未聞な話でしたなぁ。」
 
 ちょっと態度が大きくなっていたが、ここで表面的には心配そうな様子で園田は話す。それを見ていた部下もつれて語る。
 「本当です。yumikaさんは人気絶頂でしたから。私もファンでしたし。」
 「僕は未だに、不可解なことが多くて納得出来ないんですよ。もしかして突然帰ってくるんじゃないかという気がしてます。」
 
 良太は心から本音を言っている。

 「心配です。」  

 良太の二言目にやや沈黙状態になってしまった。そこですぐさま園田が話の本題に振った。
 「まぁ、とりあえずここらで今度のCMについての話でもしますか。」
 「そうしましょうかね。」

 部下が新しい企画書を出し始めた。
 「では、私からお話をさせて頂きます。今回もまた、化粧水と口紅のCMとなり
ます。前回やっていただいた・・・」
 相手の仕事の話だが、黒川の話をしたせいでちょっと上の空の良太だった。

< 19 / 34 >

この作品をシェア

pagetop