A voiceprint
その日の夜中、良太はややよっている状態で帰ってきた。翔二はまだ起きていて大学で出すレポートを書いていた。

 「ただいま」
 「兄貴、お帰り。遅かったじゃん。」
 「うん、打ち合わせの仕事があって。」
 「CDの話?」
 「いや、CMさ。園田製薬の新しいやつだよ。また二人を使ってくれるみたいでさ。」
 「へぇー。・・・ところで来週さ、natuのCD出るだろ。もう出来てるなら聞かせてよ。」
 「まぁ、歌は出来てるけどジャケットが直前になってやり直しでまだなんだよ。あと2、3日かかるよ。」
 「じゃ、歌詞ぐらいは見せてよ。」
 「ん?まぁいいけど。ちょっと待って。」
 良太は自分の部屋へ行って、NGの出来上がっているジャケットを持ってきた。

 「ほい。」  
 良太は翔二にジャケットを渡す。

 「サンキュー。」
 翔二はしばらく目を通していたが、やや自虐的な重い歌詞に首を傾げたくなる部分もあったようだ。
 
 「へぇ。この歌詞、いつもよりちょっときついね。」
 「そうか。・・・でもメロディーは明るい感じでいいんだ。今回は曲先行の歌だな。」
 「そうか。ま、楽しみにしてるよ。」
 「うん。・・・さてと、風呂風呂。もう沸いてる?」
 「うん。沸いてるよ。」
 「よし、じゃ入ろう。」 

 良太は部屋を出た。翔二はもう一度読み返す。
 「悲しみの歌かぁ。ふーん。」
 やはり恋をしたいがうまくいかなくなって自暴自棄になっていく女の姿を描いたこの歌詞は、まるで去年消えたyumikaを彷彿とさせる内容だったためになんとなく胸につかえる何かがあるのだった。
< 20 / 34 >

この作品をシェア

pagetop