A voiceprint

7 天才黒川の負の産物

 約1年近くも姿を隠していた黒川晋。誰も彼の姿を見つけることはなく、良太でさえ音信不通であった。

 実は黒川はある場所でほぼ毎日籠もっていた。それはある研究をしていたからだ。その研究内容はズバリ!
 
 『人を音楽で感情支配することができるか』

 黒川は誰もなしえなかった、いやむしろ誰もやろうとすらしなかったプロジェクトを考え付いたのである。そしてそれを裏で手助けしている人間もいた。そのため黒川は家に籠もっていても大抵の身の回りのことは問題がなかった。籠もっていた家は季節によっては全然人気のない場所だったため、疲れたときはおいしい空気を吸いに外に出たし、食事なんかも材料さえ調達してもらったら何でも一人で作って食べた。
 
 黒川は味へのこだわりもあるために、自分が納得するまで腕を磨いていたために料理の腕もそこらへんのシェフよりはかなり上でまさに一流料理人でもあった。

 黒川が1年かけて作り出した曲。それはnatuが歌って一位になったばかりの「悲しみの歌」、そして「憎しみの歌」、最後に「癒しの歌」。この3曲だった。
 といっても「悲しみの歌」は作詞も作曲も当然昔にやっていたものだが、黒川がピアノアレンジした黒川版「悲しみの歌」である。それから「憎しみの歌」は詞はなくピアノ伴奏のみの曲。そして「癒しの歌」はもともとyumikaが出す予定だった曲で、黒川がyumikaの声を編集に編集を重ねて彼女が自然に歌っているようにした、これも伴奏はピアノのみの曲である。

 曲自体は普通の歌だが、実はこの編集した声と黒川自身が伴奏したピアノに大きなカラクリを忍ばせていた。そこに天才たる黒川の作り出した究極の負の産物が生まれたのである。

 
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