A voiceprint
 普段からクールであるよう心がけていた黒川は、やはり物事をすべてにおいてクールに判断して生きていた。しかし内なる想いは相当に熱く、今自分が行っていることは悪の行為であるということも、yumikaを失ったことによる自虐だということも重々承知した上で、世間への復讐、究極には人類への滅亡へと導くための道を作り出した。

 そして、タイミングよく自分が予想していた通りに、「悲しみの歌」をnatuが歌うことによって全国に知れ渡ることができたため、黒川版の「悲しみの歌」を流すチャンスを手に入れたのである。

 それはnatuのシークレットライブ・・・。

 この日のために準備を万端にし、同時に「憎しみの歌」も多くの人が聞くようにうまく仕組んだ。
 細かいことは黒川に同調したと思われる協力者がすべてことを運ぶよう手はずを整えてくれていたが、ライブで黒川版「悲しみの歌」が流れるようにするためにはやはり黒川が仕組むしかなかった。

 そこで黒川は前日の夜にこっそりとライブ会場に足を運んだ。車を止め、裏口からこっそりと入り、音楽司令室に入らなくてはならない。しかしそうはいっても事前連絡などはしてないので当然、夜勤の警備員に呼び止められた。

 「すみません、ここに入るのは禁じられていますよ。」
 「ああ、そうだね。でも、私のことを知っているよね。」
 
 サングラスをはずすと警備員は驚いた様子でしきりに謝った。
 「あ、これはこれは。黒川晋さんですよね。失礼しました。・・・けれど、どうしてこんな時間に、しかも行方不明になったと聞きましたが・・・。」
 「ああ。実は警察にあらぬ嫌疑をかけられて拘留させられていたんだ。しかし無事に疑いが晴れて釈放されたね。そして明日のシークレットライブで僕が復活するというサプライズを用意してるんだ。だから明日の音源の確認に来たのだが・・・」
 「そうでしたか。復活おめでとうございます。そういうことでしたらお通りください。」
 
 
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