A voiceprint
 「ありがとう。ただし、君に約束してほしいことがある。」
 「それは何ですか?」
 「これはシークレットライブのさらにシークレットな出来事だから、私のことをいかなる理由があっても誰にも教えてはいけないよ。」
 「わかりました。」
 「ああ、お願いだよ。明日にはわかることだけれどもこのことがマスコミにでもばれたら水の泡だ。もしばれたら君には相当大きな被害を被ったと訴えるかもしれないからね。」
 「大丈夫ですよ。朝、仕事が終わったらまっすぐ帰って寝るだけですから。」
 「そう。じゃよろしく。」
 「はい、頑張ってください。」
 「あっ、そうそう。今私が中にいる間も誰も入れてはいけないよ。私のことは身内しか知らないんだから。」
 「それも任せてください。」
 
 それを聞いてうなずくと黒川は会場へと入っていった。

 司令室に入ると黒川はライブのタイムテーブルをチェックした後に、「悲しみの歌」の音源を自分の作った黒川版「悲しみの歌」に差し替えた。

 当日はnatuが直前までテレビ出演のためにリハーサルはやらず、音量などの調整も含めてすべてのことを今日のうちに済ましていることも知っている。まさか前日に完璧な状態にしていたはずなのにこの歌だけがすり替わっているなどとは誰も思わないだろう。

 黒川は手際よく音源のプログラミングもすべて整えて部屋を出た。

 帰りにもう一度警備員に挨拶をした。そして警備員は一礼をして黒川を見送った。すべてを完璧な状態して黒川は今、籠もっている家に向かって車を走らせた。

 
 
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