A voiceprint
6月15日。
 
 梅雨の真っ只中、黒川が最後尾でライブを見ていた。そして悲劇は突然彼を襲った。

 黒川はまさかこの日がyumikaの最後のライブになるとは思ってもいなかったはずだ。普段どおりに500人で満席となるいつもの小ホールでは、普段は物静かな少女yumikaの歌声を聴きに、たくさんの熱気で包まれていた。

 yumikaの人気がものすごい理由の1つに、どの世代にも好かれているということが挙げられる。

 今日も可愛いyumikaに熱中している大学生の男子諸君、美しい歌詞やメッセージ性に多くの共感を受けている女子高生、yumikaと同世代の男女カップルもいれば黒川の音楽に惚れている30~40代の玄人肌。どこか懐かしいような歌声に惹かれいつもやってくる子供づれのおばさん集団もいる。

 それぞれがそれぞれの想いでやってきて、歌う姿に皆その場で熱くなり、歌の合間ではyumikaをどこか助けてあげたくなるようなシーンとなり、そして最後は1つになって他のどのアーティストにも見られないような温かい気持ちになって帰っていくのである。

 この日もお客さんたちはそうだった。何も知らないyumikaも良太の司会で無事に終えることが出来た。

 唯一このライブがいつもと違っていたことは、ライブ終了時に黒川の姿はなく、彼は予想だにせぬ大きなトラブルに巻き込まれてしまっていたことである。
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