A voiceprint
 ほぼ中盤にさしかかった、曲数で言うと5曲目の「癒しの歌」が終わった頃だった。

 ちなみに「癒しの歌」は音源化されていないにも関わらず、yumikaの声のあまりの心地よさにファンからは絶大なる支持を得ていて、CD化されるのを期待されている曲である。

 yumikaが歌い終わるとすぐさま良太がやってきてyumikaをフォローする。歌っている時の表情と、歌い終わってからの表情が全く違う。だから良太はお客のテンションを下げないようにしつつ、yumikaの様子も気遣いつつ上手に進行させていく。

 「yumikaの癒しの歌でみんなが癒されちゃってますよ。あまりにも癒されてむしろ眠っちゃってる人もいるかも知れないけど、みんな大丈夫ですかー起きてますかー?」

 すると大きな歓声が返ってくる。

 「大丈夫ー」
 「起きてるよー。」
 「ちゃんとyumikaを見てるよ。」
 
 大まか三通りの声援が返ってきた。

 yumikaは笑顔で客席を見ている。きりのいいところで良太が入る。
 
 「さてさて癒されて落ち着いたところでそろそろ後半戦に行きたいと思いますけど、今度は元気な曲になりますね、yumika!」

「はい。」

 「じゃあ、後半戦まずはこの歌ですね。じゃ、yumika、紹介してください。」

 「はい。じゃあ皆さんも歌ってください。 『新しい願い』です。」

 良太は舞台から消え、yumikaが一礼すると曲が流れ出す。すると歓声が少しずつ大きくなり、みんなのテンションが上がる。そしてyumikaの表情が少しずつ変わり、彼女のテンションも一気に上がっていくのがわかる。

 そんな様子をいつもどおり見ていた黒川は後ろを振り向くと、そこにはその場には似つかわしくない男性が3人、自分に近づいていくのがわかった。男達は黒川の席の後ろに立ち、話しかけてきた。
 

 

 
 
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