委員長に胸キュン 〜訳あり男女の恋模様〜
「相原君、お願いがあるんだけど、いい?」

「もちろんいいよ。どんな?」

「えっとね……」


 私が顔を上げて相原君に言うと、彼は私の“お願い”が何かも分からないのに“いいよ”と言ってくれた。いかにも優しい相原君らしく、そんな彼を利用するようで気が引けたけど、今日だけ、一回だけ許してほしい……


「“旨かった”って、言ってくれる?」

「……はい?」


 相原君は、訳が分からないという感じで聞き返してきた。いきなりでは無理もないと思うけど。


「“旨かった”って、言って? お願いだから……」


 そう。悠斗は“美味しい”なんて言わなかった。そういう時は、“旨かった"って言ってたんだ。

 私は目を閉じ、相原君の……ううん、悠斗の言葉を待った。


「旨かった」


 ああ、この声は、間違いなく悠斗だわ……

 そして私は思い出した。悠斗が私の家に来た時、お腹が空いたと言うから、急いで冷凍のグラタンかラザニヤを温めてあげた日の事を。

悠斗はそれをあっという間に平らげ、“旨かった”と言い、その後……


「“おまえ、料理の腕を上げたんじゃないか?”って言って?」

「おまえさ、料理の腕を上げたんじゃないか?」

「そんな事ないよ。だって、レトルトをチンしただけだもん」

「なんだ、そうか。あはは……」


 相原君ったら、お願いもしてないのに悠斗そっくりに返してくれて、私はますます悠斗と話しているものと、錯覚していった。

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