委員長に胸キュン 〜訳あり男女の恋模様〜
「あの……」


 桐島さんは、いつまでも黙ってる俺に、しびれを切らしたかのように口を開いた。


「はい?」

「知ってましたか?」

「……うん、知ってた」


 田村悠斗の件は同級生、と言っても一つ下らしいが、渡辺沙織さんから聞いたのだが、彼女の名前は出さなかった。


「そう……だよね。あのね」

「うん」

「彼、田村さんっていうんだけど、名前が相原君と同じなの」

「あ、そうなんだ……」


 もちろんそんな事は知っているが、俺は惚ける事にした。俺が渡辺さんから聞いたのは、桐島さんの元カレは田村もしくは田中という苗字で、東高の3年……いや、学年までは言ってなかったかなで、大きなバイクに乗る不良っぽい男。確かそれだけだから、俺はそれしか知らない振りをするつもりだ。


「それと、声が相原君とそっくりで、身長とか歩き方までそっくりで、だから……」

「うん」

「錯覚しちゃったの。あの時……」

「錯覚?」

「そう、錯覚なの。びっくりしたでしょ?」

「あ、ああ。そうだね」

「本当にごめんなさい」


 桐島さんはペコッとお辞儀をし、言うべき事は全て言ったという事だろうか、いつもの彼女に近い、いくらか落ち着いた表情になり、ストローで甘そうなアイスコーヒーを口に含んだ。

 そのピンクの口元を見ていると、あの日のキスを思い出し、ついムラムラっとしつつも……一方でイラッとする俺がいた。

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