委員長に胸キュン 〜訳あり男女の恋模様〜
「おじゃましまーす」


 桐島さんは、律儀にもそう言って俺のマンションに入って来た。もちろん、中には誰もいないのだが。


 俺たちは俺の部屋に直行し、ローテーブルを挟んで向かい合わせに座った。フローリングの床にクッションを敷き、俺はもちろんあぐら。桐島さんは、いわゆる姉さん座りだ。


「すぐにエアコンが効くと思うんで……」

「うん。お母さんはお仕事?」

「うん、そうだよ」

「お医者さんなんだよね?」

「えっ? なんで知ってるの?」


 俺は思わず慌ててしまった。なぜなら、当たり前だが田村悠斗の母親も医者なわけで、怪しまれるんじゃないかと思ったのだ。もちろん偶然という解釈もあるが、それにしては少しばかり出来過ぎな気がする。ところが、


「この間、真琴さんって人から聞いたの」


 少しも怪しむ様子はない。しかも“真琴さん”って……


「すごいなあ。何のお医者さんなの?」

「え?」

「ほら、内科とか外科とかあるじゃない。あ、もしかして産婦人……」

「……ああ。えっと、確か心療内科とかいうやつだと思ったよ」

「へえー、そうなんだあ」


 桐島さんは、“産婦人科”と言いかけて口をつぐんだようだが、あれは何だったんだろう……

 そんな事より、俺はある事を確かめたくなった。下手したらやぶ蛇になるかもしれないのだが。


「あのさ、嫌なら答えなくてもいいけどさ、田村って人のお母さんは、どんな仕事をしてたのかな?」

「え? えっと……知らない。あの人、家族の話を殆んどしてくれなかったから。そう言えば、男勝りな妹さんがいるとは言ってたかな。それくらい」


 やっぱりそうか。だから妹の真琴と対面しても、気付かなかったわけか……

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