委員長に胸キュン 〜訳あり男女の恋模様〜
 喫茶店を出ると、真夏ほどではないけども、容赦なく強い陽射しが私たちを照らした。

 相原君のマンションまではほんの数分の道のりだけど、うっかりすると彼に置いていかれそうだった。こうして彼と並んで歩くのはもちろん初めてではないけど、前はそんな事はなかったと思う。つまり、今日の相原君は少し歩くのが速いと思う。

 それで改めて思ったけど、今日の相原君は、いつもとちょっと違うような……


 相原君のマンションにおじゃますると、思った通り誰もいなかった。彼はお母さんと二人暮らしで、お母さんはお仕事だから当然なのだけど。

 私たちは相原君の部屋に直行し、ローテーブルを挟んで向かい合わせに座った。


「お母さんはお仕事?」

「うん、そうだよ」

「お医者さんなんだよね?」

「えっ? なんで知ってるの?」

「この間、真琴さんって人から聞いたの。すごいなあ。何のお医者さんなの?」


 実は私、大学は薬学部を受けて、将来は薬剤師になりたいと思っている。本当はお医者さんになれたら良いのだけど、私の学力では難しい。親の経済的負担も大きいし。

 そんな事から、私は相原君のお母さんに興味があった。この間お会いした時は厳しそうな女性という印象しかなかったけど、あの時は自分にやましいところがあったし、留守中に勝手に上がり込んだ私に厳しく接したとしても、それは無理ないと思う。


「え?」

「ほら、内科とか外科とかあるじゃない。あ、もしかして産婦人……」


 しまった。私ったら、自分で地雷を踏んでしまった。

 出来る事なら忘れてしまいたいけど、たぶん一生忘れる事はない辛い過去を、自分の不用意な言葉で思い出してしまった……


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