委員長に胸キュン 〜訳あり男女の恋模様〜
「何が真琴‘さん’だよ。自分の娘のくせに……」


 おふくろは、変な例えかもしれないが、まるで万引きをとがめられた主婦みたいにおどおどした様子で、俺が「座ってよ」と言うと、素直にそうした。


「田村さんが俺のおやじさんだなんて、びっくりだよ」

「悠斗、あなた、記憶は……」

「戻ってないよ。今のところはね」

「そう……」

「なんでだよ?」

「え?」

「おふくろがした事だよ。おやじさんと離婚して苗字を変えたり、俺を東高から中央高に編入させたり……あ、肝心な事を忘れた。俺の顔を変えたよね? なんでそんな事をしたのさ?」

「か、顔は仕方なかったのよ。事故で、その……グチャグチャだったから」

「それは嘘だね」

「え?」

「今の医学じゃ、グチャグチャになった顔を綺麗に整形なんて出来っこない。つまりおふくろは、しなくていい手術で俺の顔を変えたんだ。そうだろ?」


 おふくろは無言だった。やはり俺が思った通りだったらしい。


「なんでそこまでしたんだよ?」


 俺の中ではとっくに答えは出ていたが、おふくろの口からそれを聞きたかった。しかしおふくろは、ただ黙って俯くばかりだった。


「わかった。おふくろが言わないなら俺が言うよ。おふくろは、過去の俺を抹殺したかったんだろ? 田村悠斗という男を、この世から消そうとしたんだ」


 そう言って、俺はおふくろの様子を窺った。今更ではあるが、俺はおふくろに謝罪してほしかった。そして、自分の行いを悔いてほしかった。ところが……


「悠斗。あなたが悪いんでしょ!」


 やおらおふくろは顔を上げると、俺を睨みつけてそう叫んだ。

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