委員長に胸キュン 〜訳あり男女の恋模様〜
「ごちそうさま、美味しかったあ。よく上手に作れたわね?」

「レトルトをチンしただけだよ」

「そうなの? でもサラダは違うでしょ?」

「それはちぎってドレッシングをかけただけ。それより母さん……」


 まだ生乾きの母の黒髪を見ていたら、否応なしに僕は思い出していた。学校の帰りに出会った、あの可憐な少女の事を……


「なあに?」

「うん……」


 あの少女の事を母に話すべきか僕は迷った。起きた事は何でも母に話すようにしているし、あの少女に対する僕の思いを、母にも共感してもらえたらいいなと思うのだけど、一方で気恥ずかしさも感じてしまう。

 考えてみたら、母と女の子の話をした事は、過去に一度もなかったような気がする。


「どうしたの? 何か言いたい事があるんでしょ?」

「うん、そうなんだけど……」

「何でも話して? 私に隠し事は……ダメよ。ダメダメ」

「へ?」

「うふ。最近流行りのお笑いを真似してみたの。悠斗は知らないかな?」

「ああ、やっぱりそうか。知ってるけど、まさか母さんが真似するとは思わなかったよ。あはは」

「似てた?」

「うん、結構似てた」


 母はもうすぐ50歳だけど、見た目は40そこそこにしか見えないし、とても綺麗だと思う。今のように茶目っ気もあり、気は若いと思うし。


「じゃあ言うね? 今日の学校からの帰りに、いきなり土砂降りの雨が降って来てさ、母さんに言われた通り、バッグに折りたたみの傘を入れてたから助かったんだけどね……」

「でしょ? この時期はそういう事があるから、傘はいつも持ってた方がいいのよ?」

「そうだね。でも、傘のない子もいて、僕の横を濡れながら走って行く女の子がいたんだ。見たこともない子なんだけどね。僕は咄嗟に……」


 僕はあの少女の事を母に話した。事実をありのままに。そして、いかに彼女が可憐だったかを。恥ずかしかったけれども。


 母はきっと笑ってくれるだろうと思った。あるいは僕の事をからかうかなと。ところが……


「あまり感心しないわね」


と母は言い、怒ったような顔をした。

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