委員長に胸キュン 〜訳あり男女の恋模様〜
「“旨かった”って、言って? お願いだから……」


 桐島さんはもう一度そう言い、スプーンを置いて目を閉じた。それが彼女の“お願い”らしい。ただ、“旨かった”って言えばいいのか?

 なんだか拍子抜けしてしまったが、桐島さんは本気らしく、目をつぶって僕が言うのを待ってるようだ。だったら、言うしかないわけで……


「う、旨かった」


 いけない。噛んでしまった。


「“おまえ、料理の腕を上げたんじゃないか?”って言って?」


 桐島さんは、目をつぶったまま続けてそう言ったのだけど、僕は正直……“なんだそりゃ?”と思った。そもそも、お粥もスープもレトルトを温めただけのはずで、料理の腕がどうこうではないと思うんだけど……

 ああ、そうか。きっと桐島さんは、ドラマか何かの台詞を再現しようとしてるんだ。なるほどね。

 僕はそう納得し、わざと声を低くして、


「おまえさ、料理の腕を上げたんじゃないか?」


 と言ってみた。


「そんな事ないよ。だって、レトルトをチンしただけだもん」

「なんだ、そうか。あはは……」


 この返しは芝居ではなく、自然と口を突いて出たものだ。

 すると桐島さんは「うふふ」と笑ったのだけど、彼女の閉じた目から透き通った真珠のような涙が一滴零れたと思ったら、肩を震わせ泣き出してしまった。

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