委員長に胸キュン 〜訳あり男女の恋模様〜
 それから数日経ったある日の放課後。何やらホームルームがあるとかで、僕を含めたクラスの全員が教室に残っていた。

『塾に遅れちゃう……』なんて愚痴がチラホラ聞こえて来た。なるほど、それは大変だろうな。因みに僕は塾へは通っていない。そこまでシャカリキに勉強したいとは思わない。ただし夏休みの夏期講習には行く事になっているのだけど。


 まもなく二人の男女が教室の前に行き、少し間を空けて教壇の上に並んで立った。二人はたぶんこのクラスの委員長だと思う。二人ともメタルフレームの眼鏡を掛け、いかにも優等生という感じだから。

 男子の方は、名前は思い出せないが顔には見覚えがあった。でも女子の方は全く見覚えがない。もう何ヶ月にもなるのに、未だに名前はおろか、顔すら覚えてないクラスメイトがいるって、僕はどんだけ鈍臭いんだろうか……


「みんなも知ってると思いますけど、秋に文化祭があります。すこし早いですけど、文化祭の実行委員を今日決めたいと思います」


 男子の委員長がよく通る声でそう切り出した。なるほど、そういう話か。でも文化祭の実行委員なんて、僕には全く縁がないな。


「男女1名ずつですが、立候補する人はいませんか?」


 と男子の委員長が続けたけど、クラス全体がシーンと静まり返ってしまった。やはり自ら買って出る人はいないようだ。

 もちろん僕も立候補なんてするはずもなく、口をつぐんでボーッと見ていた。女子の委員長のことを。


 彼女は一言も発する事なく、たぶん無表情で真っ直ぐ前を向いていた。“たぶん”というのは、僕の席はかなり後ろの方で、しかも僕はあまり目が良くないので、彼女の細かな表情までは見えないからだ。しかし……

あれ?

 初めは全く見覚えがないと思った彼女だけど、そうでもないような気がしてきた。もしかして、どこかで会った事があるような……

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