委員長に胸キュン 〜訳あり男女の恋模様〜
「あ、あの、指名なんかしてすみませんでした」


えっ?

 相原君は私を指名した事を謝った。さも申し訳なさそうに。でも、なぜ?

 私はてっきり、彼はあの雨の日の私の無礼に腹を立て、その腹いせに私を指名したと思っていたのに……


「迷惑でしたか?」

と聞かれ、私は心の動揺を隠すように、低い声で、

「……別に」


と答えた。我ながら、なんて可愛げのない女なんだろうと思う。ところが相原君は、

「そ、そうですか。良かった……」

と言い、穏やかに微笑んだ。

 どうやら彼は、私に腹を立てたのではないらしい。という事は、どうして私を指名したの?

 もしかして、みんなが思ったように、相原君は本当に私の事を……?


 そう思ったら、顔がカーッと熱くなりかけてしまった。これはまずいわ。みんなが見てる前で、自分で氷を解かしてしまう。


「あの……」

 相原君は何か言い掛けたけど、それに構わず私は彼に背を向けた。早くここから立ち去りたくて。


「ちょっと待ってください」

 ところが、相原君は私の前に回り込んだ。


「何よ?」

「えっと、打ち合わせをしませんか? 歩きながらでいいんで」

「何の打ち合わせ?」

「もちろん文化祭のです」

「それはまだ早いでしょ? 夏休みの後に委員会があるから、その後でしましょ?」

「あ、はい」

「さようなら」


 相原君は一緒に帰ろうと言ったけど、そんな事をしたらますます噂になってしまう。私ははっきり断り、さっさと帰ろうとしたのだけど、

「あ、ちょっと……」


 相原君は、まだ何かを言おうとし、私は敢えて冷めた表情を作り、彼を睨んだのだけど……


「この間は濡れたでしょ?」


と相原君は言った。

 一瞬、嫌味を言われたのかなと思った。でも、彼の優しい表情を見て、そうではないと思った。相原君は、私を心配してくれているんだわ……

 その事に感謝しつつ、私はチャンスだと思った。あの日の無礼を、彼に謝るチャンスだと。このタイミングを逃したら、もう言えないと思うから、周囲の事なんか気にしてられないわ。


「あの時はごめんなさい」


 やっと言えた……

 私はホッと胸を撫で下ろし、無言の相原君を残して教室を出た。

 相原君は、ある意味危険だと思う。なぜなら、彼と接していると、私の心が乱されてしまいそうだから。でも、もうすぐ夏休み。その間に、きっとそれも落ち着くだろう。

 と、その時は思ったのだけど……

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