LOVE or DIE *恋愛短編集*
今年の祭りでは街中の店が金魚を題材にした何かを出店すると決まっていた。
爽子が金魚の和菓子を作ったのも、父にそう言い渡されたためである。

飴屋の聡次郎は次男坊で跡取りではなかったが、歳が同じで付き合いがあった。
彼も何か作ったのだろうか。
聡次郎は爽子が憧れる自由人だった。
彼のように何にも縛られずにいられたらと、何度羨んだか分からない。
きっと聡次郎の金魚は何にも閉じ込められてなどいないに違いない、と爽子は小さなため息を吐いた。

硝子屋の明仁が作る繊細な硝子細工も見てみたかった。
触れたら壊れそうな脆さの中に一本筋が通ったような彼の作品にはいつも見惚れてしまう。
菓子細工をするようになってから、爽子はよく彼の作品や技術を参考にしたものだった。
明仁もひとり息子である。
もしも彼が女だったならば、自分と同じ苦しみを抱えたのだろうかと考えたことは一度や二度ではない。
だが何度考えたところで、明仁が男であるという事実は変わらなかった。

どうしてこの小さな街は、家督の襲名にこれほどまでに拘るのであろう。
老舗が老舗で居続ける理由にそんなに血が重要な問題だろうか。
女の自分がいくら腕を振っても無駄なのであれば、もっと腕が良くやる気に満ちたどこぞの職人に勝手に跡を継がせればよい。
好きでもない男を婿にとって跡取りを産むためだけに身体を任せなければならないなど、こんなに屈辱的なことがあろうか。

風鈴の音の隙間に、微かな音が混じった。
足元を見れば灰になった線香の先がぼとりと落ちた跡がある。
意識的に追い出していた祭りの気配に耳を傾ければ、先ほどよりも大分盛り上がっているのが感じられた。
線香が落ちる微かな音など初めからなかったかのような喧騒だった。
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