LOVE or DIE *恋愛短編集*
「ん??」

ようやくレジ前の客の存在に気が付いたのか、祐輔は遠慮気味に会釈をしかけ、

「ああ!なんだ、ター坊じゃねえか!」

相手が悠太だと確認すると大声でそう言った。

【ター坊】なんて呼び方をするのは、後にも先にもこの人だけだ。
佳織には知られたくなかったその呼び名に、悠太はため息をついた。

「輔兄ちゃん、久しぶり」

佳織は驚いたように

「え、2人、知り合い?」

と尋ねる。
悠太にしたら、驚いたのはこっちのほうだと言いたいところだ。

「てか、すごいあだ名だね」

【ター坊】【輔兄ちゃん】という呼び合いを聞いていた佳織は、クスクス笑った。


―――やはり、笑われた。

「兄ちゃん、もうやめろよその呼び方」

しかめっ面でそう言っても、祐輔は「何今さら」と軽く跳ねかえしてくる。

「お前が言ったんだろ、初めて会ったときに」

祐輔は、遠い昔の子供のころの悠太の口真似をしながら続ける。

「『2人ともユウくんだからまちがえちゃうね』」

「ああ、なるほど!悠太の太で【ター坊】、祐輔の輔で【輔兄ちゃん】なのね」

佳織がおかしそうに笑う。

変な呼び名を聞かれてしまったのは恥ずかしいが、この笑顔が見れたからまあいいか、という気分になれた。
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