LOVE or DIE *恋愛短編集*
君が、私の横に立つ。
繊細な刺繍のほどこされたレースがその横顔を隠した。
耳の横に飾られた真っ白な大輪のダリアが、ベールの下からひっそりと存在を主張した。

ああ、君はなんて――……。


一瞬、ほんの一瞬だけ、彼女は私の隣で歩みを緩めた。
そして――通過する。

ヴァージンロードに残されたトレインは、確かに溜息が漏れるほど見事であった。
だが私が息を呑み、そして吐き出したのは、彼女の歩調が僅かに乱れたほんの一瞬の、ベールごしの横顔にだ。

彼女が選んだベールは、見事にドレスを引き立て彼女を美しく見せた。
そして見事に、彼女を隠した。

睫毛の端に光るものを。
耳の横のダリアの意味を。


――それでいい。行きなさい。それが、君の幸せだ。


奪ってしまいたい、さらってしまいたいと、邪心が覗いたのはたったの数秒だ。
これくらいの人間らしさは赦してもらいたい。
今から私は君の保護者として、心から君の門出を祝福するつもりなのだから。


――さあ、その人の手を取りなさい。君の夫になる人だ。大丈夫、これからはその人が、君を守ってくれるのだから。


参列者に振り返った花嫁と新郎は、深々と礼をした。
男が顔を上げてから更に3秒、彼女はじっと頭を垂れていた。
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