LOVE or DIE *恋愛短編集*
小さな会社の事務員として働き、収入を得られるようになっても彼女は施設を出ようとしなかった。
お世話になっている代わりにと、暇さえあれば施設の仕事を手伝う。
心のどこかで、この関係が穢れる前に出て行って欲しいと願っていた。
そしてまた別のどこかでは、つまらない建前や世間体などかなぐり捨て、正直になってしまいたいと思っていたのも事実だ。
花が好きな彼女が、花壇にダリアを植えた。
彼女が会社に行っている間は、私がダリアのわき芽を間引いたり水をやったり肥料を足したりした。
やがて美しい花が庭を飾ると、施設の子どもたちも皆喜びそれを愛でた。
そうやって一緒に働いているだけで、私は十分幸せだった。
隠した気持ちは徐々に抑えられつつあった。
穏やかに満ち足りた日々が続いた。
忘れもしない、30代最後の年の夏のこと。
夜中に私の部屋を訪ねた彼女は言った。
『愛しています。ずっと、先生だけを見ていました』
それは私が長いこと望み焦がれていたことであり、そして同時に恐れていたことでもあった。
養父に恋愛感情に似た想いを抱くのは、ごくありがちな、一時の気の迷いである可能性が非常に高かった。
彼女のダリアを世話しながら知った、花言葉のひとつ――【移り気】。
彼女の想いがもし本物だとして、先に老いていく自分から、いずれ心変わりする時が必ず来るだろう。
お世話になっている代わりにと、暇さえあれば施設の仕事を手伝う。
心のどこかで、この関係が穢れる前に出て行って欲しいと願っていた。
そしてまた別のどこかでは、つまらない建前や世間体などかなぐり捨て、正直になってしまいたいと思っていたのも事実だ。
花が好きな彼女が、花壇にダリアを植えた。
彼女が会社に行っている間は、私がダリアのわき芽を間引いたり水をやったり肥料を足したりした。
やがて美しい花が庭を飾ると、施設の子どもたちも皆喜びそれを愛でた。
そうやって一緒に働いているだけで、私は十分幸せだった。
隠した気持ちは徐々に抑えられつつあった。
穏やかに満ち足りた日々が続いた。
忘れもしない、30代最後の年の夏のこと。
夜中に私の部屋を訪ねた彼女は言った。
『愛しています。ずっと、先生だけを見ていました』
それは私が長いこと望み焦がれていたことであり、そして同時に恐れていたことでもあった。
養父に恋愛感情に似た想いを抱くのは、ごくありがちな、一時の気の迷いである可能性が非常に高かった。
彼女のダリアを世話しながら知った、花言葉のひとつ――【移り気】。
彼女の想いがもし本物だとして、先に老いていく自分から、いずれ心変わりする時が必ず来るだろう。