LOVE or DIE *恋愛短編集*
キャー、とか可愛らしいものじゃなかった。
私が張り上げた声は、アパートの外にも響き渡ったと思う。

それでも何故か、男は余裕そうな顔をしていた。


「いいねそーゆーの、余計燃えるね」

手がゆっくりと身体を這う感触に、鳥肌が立つ。

「やめて……すぐに人が」

気丈に言ったつもりが、すぐに絶望に落とされた。

「ばーか、助けなんか来ねえよ。アパートの住民みんな、この時間留守だから」


だから『叫べよ』って……『どうせ誰も来ない』って。

ぼろりと涙が落ちた。
抵抗しても叫んでも無駄なんだと気が付いたら、その意思すらなくなった。


私が諦めたことに気付いたらしい男は、つまらなそうに「何だ」と吐き捨てた。
「もう終わりかよ」と。

それから、「まあこっちの方が楽でいいや」と独り言ちた。


こんなヤツの嘘に引っかかって、一時でも『しんちゃん』だと信じた自分が情けない。
ぼろぼろ涙が落ちたけど、こんなのと『しんちゃん』を一緒にした天罰なんだと思った。


「泣くなって、すぐ良くなるから」

そんな汚い言葉に、反応する気力もなかった。


――その時。

どん、どん、と玄関の扉を強く叩く音がした。

一瞬顔色を変えて動きを止めた男は、居留守を使うことに決めたのだろう、すぐにまた覆いかぶさってくる。

誰だか知らないけど助けて、と、声をあげようと息を吸い込んだ私に、無理やりキスして口を塞いだ。


「んんーッ!!」

悲鳴にもならないくぐもった声をあげた、瞬間。


「おい、中で何やってる!! すぐにドア開けないとぶち破るぞ!!」


ドアの外の救世主が、叫んだ。
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