LOVE or DIE *恋愛短編集*
「さて。――……本題に、入ろうか」

真新しく液体の満ちたグラスをテーブルに置いて、廣瀬が笑った。
コーヒーでも、ミルクティーでもなく、どう見てもそれはオレンジジュース。

「それ、些細な抵抗?」

廣瀬らしくない可愛げのあるチョイスに、思わず吹き出した。

「何に対する抵抗――」

「それとも」

反論を遮って口を挟む。

「懐かしい青春時代の追憶?」

「何、ソレ」

それとも――、可愛さアピール。
なんつって。
言ったら殺されそう。

「なあ、廣瀬」

殺される前に、本題に入ろう。

「何よ」

「時間と痛みは、もう忘れちゃいましたか」

「――……、」

騒がしかった店内の物音が、話し声が、全部消えた――気がした。
沈黙、は、ほんの一瞬。

「圭ちゃ」

「廣瀬自身、存外に意気地がなかった?」

「あの」

焦ったように目を泳がせて、何か言いたげに忙しなく動く廣瀬の口元を、指をかざしてふさいだ。

「俺、あんま変わってねえけど。――ちょっとは大人になったかも」

だって、あの頃分からなかった言葉の意味が分かったから。
あの頃苦手だったお前のこと、ちょっと可愛いって思っちゃったから。

つまらねえコトで笑って、つまらねえことで悩んで、つまらねえはずの毎日がなんでかキラキラしてて、恋をして、傷ついて。
昔のことだと思っていた、青春の日々は

「今もまだ、続いてるみたい」

大事な部分を飛ばして繋げた言葉に、廣瀬は首を傾げる。

「とりあえずさ、――今夜、あいてる?」

口元にかざしたままの俺の手を撥ね退けて「はぁッ!?」と大声をあげた廣瀬は、ちょっとだけ嬉しそうだった。

――多分、ね。






*fin*


(執筆2013/05/21)
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