LOVE or DIE *恋愛短編集*
年末にかけて、仕事の忙しさは増していく。
義父との口約束は忘れかけていた――否、そういう事にして反故にするつもりでいた。

忙しいのは、むしろ救いだった。
自分の仕事に加え、同僚の手に余った分も率先して引き受けた。
休日も返上して出勤する口実があれば、仕事は何でも良かった。


誰もいないあの家にいなくてすむのなら、何でも。


「今日もいたのか」

無人だったはずのオフィス、急に声をかけられて我に返った。

「……部長も、休日出勤ですか」


一瞬でも気を抜くと仕事の手が止まってしまう。
がむしゃらに働き続けるか抜け殻のように放心するか、今の俺はそのどちらかしかなかった。


「出張で使う資料を取りにきただけだ。お前、最近働きすぎだぞ。今日はもう帰れ」


クリスマスイブだぞ、と上司は言った。
デスクから取った資料と反対の手に持っているのは、ケーキの箱のようだ。

言われなければ、そんなことすら気が付かなかった――むしろ知りたくなかった。
その日はもう、俺にとって、意味のある日ではない。


「部長命令だ、帰れよ」

と、去り際にもう一度念を押された。
部下を気遣った優しさのつもりか、それとも休日手当目的とでも思われたか。

仕事がろくに進んでいなければ、上司としても見過ごすわけにはいかないのだろう。
放心しているところを見られてしまった後で帰れと言われた以上、居座り続けるわけにもいかない。
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