LOVE or DIE *恋愛短編集*
「陽ちゃん、このソファ痛い! もうスプリングへたっちゃってるじゃん!」

「それ、ひとり暮らし始めた時から使ってる安物だからなぁ。でもまだ使えるって」

「えー、買おうよ新しいの。買って買ってぇー」

「何甘えてんだよ、しょうがないヤツだな。んじゃ、それがクリスマスプレゼントな」


冗談のつもりだった。
当然不満が出ると思ったのに、紗枝は嬉しそうに飛び跳ねた。


次の年にはベランダに置くとせがまれてロッキングチェアを買わされた。
紗枝は普段はそこに小さなグリーンを置き、たまに天気の良い日にはそれをどかして、椅子を揺らしながら紅茶を飲む。


翌年からはもう、クリスマスプレゼント=椅子という暗黙の了解が出来上がっていた。

「今年はどんな椅子かなぁ」

12月に入るといつも、ワクワクしたように紗枝はそう言った。
2人暮らしには必要のない数の椅子が家中に溢れている。

キッチン用のスツール。
巨大なビーズクッション。
飾り棚替わりのベンチ。
エクササイズ用のバランスチェア。

毎年違うタイプの椅子を探すのは大変だった。
だけど、紗枝が喜びそうな色やデザインを選ぶのが好きだった。

大きな荷物を抱えて帰る俺を待ちながら、紗枝はクリスマスのご馳走を作っている。


「お帰り陽ちゃん! 今年の椅子は何かなぁ!」

「ただいま紗枝。今年のご馳走は何かなぁ」


そのやり取りを、毎年楽しみにしていた。
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