LOVE or DIE *恋愛短編集*
もう一度顔を洗ってから、家を飛び出した。

店はまだ開いている、いつも椅子を探したショッピングモールが。
だけどぎりぎりの時間だ、のんびり選んでいる暇はない。

急ぎ足で店を目指しながら、携帯を取り出す。
コール音1回ですぐに電話が繋がった。


「もしもし、陽介です!」

『良かった。紗枝が言った通りだ』

「え……?」

『しかしぎりぎりだったなぁ』

「あの……なんのことですか?」


義父の言葉の意味が分からない。
紗枝が、何を言ったというのだろう。
だけど今は、本当に時間がない。


「すみません。遅くなりますが、これから伺ってもいいですか?」

『もちろんだ、その確認の電話かい?』

「あ! あの、椅子を……」

『椅子? 何のことだい』

「ええと……お、お義母さんはいらっしゃいますか?」


赤ん坊用の椅子は何が良いか、何は既に用意済みか、義父よりも義母の方が頼りになる気がした。
とにかく今は、急ぐ。


電話の向こうでは何やら受話器を押えて話す声と雑音、それから義母に電話を代わる気配と――、


『はいはい、代わりましたよ……もしもし? ――陽介さん?』


赤ん坊の、泣き声。

紗枝と、俺の子の、声が聞こえた。


『陽介さん……泣いてるの? あらあら。親子だねぇ』


嗚咽を漏らしたつもりはないのに、義母にはばれていた。
携帯から聞こえてきたのは、子を慰める母親の声だった。
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