LOVE or DIE *恋愛短編集*
『陽ちゃん、それが家族だよ』
紗枝の声は、一体いつまで聞こえるだろう。その内にこの声すら、消えてなくなってしまうのだろうか。
呼び鈴を鳴らすと、すぐに義父が出てきた。
その後ろには、赤ん坊を抱いた義母が。
「お帰り、陽介さん」
お帰りと、彼らは確かに、そう言った。
それはまるで、俺を家族の一員だと、紗枝がいなくなった今でも俺を息子だと、彼らがそう思っていてくれることの証明のようだった。
「さあ入って。早く抱いてあげなさい、君のこどもを」
俺は小さな我が子を、紗枝がのこしてくれた最後のプレゼントを、初めてこの腕に抱いた。
その小さな手からは考えられないような強い力で、その子は短い腕をいっぱいに伸ばして俺の服を掴んだ。
『ここにいるよ。ちゃんと見て。ちゃんと愛して』
しゃべるはずのない赤ん坊の声を、俺は聞いた。
この子を手離そうなどと何故思ったか。
愛せないに違いないと、何故決めつけていたか。
愛おしさがこみ上げてきて、今日何度目かも分からなくなった涙を流した。
「紗枝の予言通りになったわねぇ」
「陽介さんは必ずイブまでに戻ってくる、か」
「椅子を持って……ね」
父と母が、持ってきた包みを開けながら何か言って笑いあっていた。
嗚咽が邪魔してよく聞き取れない。
だけどそこに俺は、紗枝が俺に教えたいと言っていた、家族の温もりを確かに感じていた。