LOVE or DIE *恋愛短編集*
目指す先に佇む店の看板に、彼は不安げに顔をしかめた。

「おい、本気かよ」

「大丈夫よ」

しっかり捕まえた腕が離れないよう、力を込める。

「ちゃんと蟹の神様に謝らなきゃね」

と、渋る彼をぐいぐい引っ張って、力づくでその店の暖簾をくぐった。

「いらっしゃいませ、2名様ですね?」

にこやかに迎えてくれる和装の店員さんに、負けじと微笑み返す。

「予約してないですけど、大丈夫ですか?」

「勿論です。個室のお座敷がございますよ」

と、すっと差し出されたスリッパに履き替え、未だ「マジか」とぶつぶつ文句を垂れる彼を店内に引きずり込んだ。

レジ前の大きな水槽でたゆたう『彼ら』は、話に出てきた『ヤツ等』のような真っ赤ではなかったけど、それでも彼は脅えたように私にぴっとりくっついてきてちょっとおかしい。

落ち着いた雰囲気の和室に通され、メニューを差し出した店員さんが言った。

「この蟹御膳が一番人気のおすすめですよ」

無理やり連れ込まれた蟹料理専門店の蟹づくしのメニューをちらりと見やって、ついに諦めたように、彼はがっくりと肩を落とした。
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