耳に残るは
私の隣に戻ってきた美緒が、ニッコリ笑いながらフランクフルトの載ったお皿を差し出してくれた。
「山ちゃんも、川田さんも。フランクフルトいかがですか?」
「食べる食べる!腹減りまくり。客先だとお茶しか出ないから。お金は後で良いかな?」
言いながら、川田さんが手を伸ばした。
「私も食べるよ。後でお金払うね。美緒、ありがとう」
「じゃ、さっそくいただきます!」
「ハイどうぞー」
他の同僚たちにも食べ物を勧めている美緒の話し声を聞きながら
フランクフルトを一口かじったところで、
会場に第二部が間もなく始まるとアナウンスが流れて少し安心した。
奥田さんが悪いわけではないけど、さっき話しかけられたせいで
いったん中断された会話の流れが戻らないし、次の話題が見つからない。
別に、年齢の話の続きなんか敢えてしたくもないし。
どうしようかな、と思っていたところだったからだ。
第二部が始まれば、ちょっとは間も持つよね・・・と一人で考えていたところで。
「そういえばさ」
一瞬にして半分以上食べられたフランクフルトの棒を片手に、川田さんが話しかけてきた。
「花火、第二部はどっち側から上がるのかな。知ってる?」
「うーん、わかんないです。さっき放送で説明が流れてたのを聞いてたんですけど。
西だ東だって言われてもわからなくて。
一部のときはあっち側から上がってたんですけど・・・」
と川田さんのいる通路側の空を指さしながら言っていたら、
どこからかヒュルル・・・という音が聞こえてくる。
「あ、始まった!どこ?どっち側?」
二人して空を見上げ、視線をさ迷わせたのは、二・三秒もなかったと思う。
不意に彼が「あっちだ!」と言いながら、私の背中を優しく押す。
押された体が、少しだけ左斜めを向かされると、
私の肩越しに伸びる彼の手、人差し指の指し示す先。
真っ赤な花火が浮かび上がった。
お腹に響く重低音とともに、夜空に吸い込まれるように消えゆく大輪の花。
すかさず、消えゆく花火の残像を塗りつぶすように黄金色の小さな花火がいくつも夜空を弾けた。
赤と金の美しさに思わず、嘆声と笑みがこぼれる。
「きれい」
私はそのままの表情で彼の方を振り向いて、「ありがとうございます」と言ってみたけれど、
次々と上がる花火の音にかきけされてしまうようで。
「うん?」
上がり続ける花火の明かりに照らされた彼が、目を見開いた表情で肩を傾け、
私の口許に耳を近づけてきた。
私は自分の片手を拡声器代わりに口許に添えて、彼の耳元でもう一度言ってみる。
「ありがとうございます。花火、綺麗ですね」
今度は聞こえた。
ああ、と言って頷きながら、彼もまた私の耳元で言う。
「どういたしまして。来てよかった」
そう言って笑顔になった彼と目を合わせ、あいまいにほほ笑んでから
花火が上がり続ける夜空に視線を戻すけれど。
耳元にほんの少しかかった息の温かさと低い声に、不覚にもドキっとしていた。
花火の色と、夏の暑さで顔の赤さはごまかせたはず。
もしくは、赤くなどなっていないはずだ。
そう思いながら、さりげなくウーロン茶の紙パックを軽く当てて、頬の熱さを
和らげることにした。
「山ちゃんも、川田さんも。フランクフルトいかがですか?」
「食べる食べる!腹減りまくり。客先だとお茶しか出ないから。お金は後で良いかな?」
言いながら、川田さんが手を伸ばした。
「私も食べるよ。後でお金払うね。美緒、ありがとう」
「じゃ、さっそくいただきます!」
「ハイどうぞー」
他の同僚たちにも食べ物を勧めている美緒の話し声を聞きながら
フランクフルトを一口かじったところで、
会場に第二部が間もなく始まるとアナウンスが流れて少し安心した。
奥田さんが悪いわけではないけど、さっき話しかけられたせいで
いったん中断された会話の流れが戻らないし、次の話題が見つからない。
別に、年齢の話の続きなんか敢えてしたくもないし。
どうしようかな、と思っていたところだったからだ。
第二部が始まれば、ちょっとは間も持つよね・・・と一人で考えていたところで。
「そういえばさ」
一瞬にして半分以上食べられたフランクフルトの棒を片手に、川田さんが話しかけてきた。
「花火、第二部はどっち側から上がるのかな。知ってる?」
「うーん、わかんないです。さっき放送で説明が流れてたのを聞いてたんですけど。
西だ東だって言われてもわからなくて。
一部のときはあっち側から上がってたんですけど・・・」
と川田さんのいる通路側の空を指さしながら言っていたら、
どこからかヒュルル・・・という音が聞こえてくる。
「あ、始まった!どこ?どっち側?」
二人して空を見上げ、視線をさ迷わせたのは、二・三秒もなかったと思う。
不意に彼が「あっちだ!」と言いながら、私の背中を優しく押す。
押された体が、少しだけ左斜めを向かされると、
私の肩越しに伸びる彼の手、人差し指の指し示す先。
真っ赤な花火が浮かび上がった。
お腹に響く重低音とともに、夜空に吸い込まれるように消えゆく大輪の花。
すかさず、消えゆく花火の残像を塗りつぶすように黄金色の小さな花火がいくつも夜空を弾けた。
赤と金の美しさに思わず、嘆声と笑みがこぼれる。
「きれい」
私はそのままの表情で彼の方を振り向いて、「ありがとうございます」と言ってみたけれど、
次々と上がる花火の音にかきけされてしまうようで。
「うん?」
上がり続ける花火の明かりに照らされた彼が、目を見開いた表情で肩を傾け、
私の口許に耳を近づけてきた。
私は自分の片手を拡声器代わりに口許に添えて、彼の耳元でもう一度言ってみる。
「ありがとうございます。花火、綺麗ですね」
今度は聞こえた。
ああ、と言って頷きながら、彼もまた私の耳元で言う。
「どういたしまして。来てよかった」
そう言って笑顔になった彼と目を合わせ、あいまいにほほ笑んでから
花火が上がり続ける夜空に視線を戻すけれど。
耳元にほんの少しかかった息の温かさと低い声に、不覚にもドキっとしていた。
花火の色と、夏の暑さで顔の赤さはごまかせたはず。
もしくは、赤くなどなっていないはずだ。
そう思いながら、さりげなくウーロン茶の紙パックを軽く当てて、頬の熱さを
和らげることにした。