Fake love(1)~社長とヒミツの結婚契約書~
俺は佑介のアドバイスを受けて寝室を訊ねるが、応答なし。



ドアに耳を当てて澄ましてみれば、紗月のすすり泣く声が聞える。


俺と出会った当時の紗月はバイトを始めて1週間目の新人だった。



三鷹店では真面目で愛想もいい評判のアルバイト従業員。

――――本当は2年半、よく頑張ったと彼女を労いたい。


今ここで、俺が強引に寝室に飛び込んで、謝って慰めれば仲直りは出来る。


でも、それでは悪い男にはなれず、彼女の気を惹いてしまうかもしれない。


俺は暫く心の中で葛藤する。ようやく、考えが定まり、踵を返してリビングに戻った。


俺は彼女に謝るコトも慰めるコトもしなかった。



すっかりのびってしまったラーメンを啜り、寂しい時間を過ごした。




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