キミと帰る道
≪覚えたのね! いーい?逢原すずちゃんだよ!≫
「ん、わかったよ」
≪すずちゃんだよ!≫
電話越しに『逢原すずちゃん!』としつこく言ってくる聖羅に、思わず笑ってしまう。
お陰で、記憶から零れなくて覚えられそうだけど。
頭の中で、キミの名前と瞳と声が出てくるから。
「聖羅。 もう、覚えたって」
≪いま覚えても無駄なのーっ。
明日も明後日も覚えてられるの?≫
「覚えるよ」
『覚えたい』という願望なんかじゃなくて。
絶対覚えたいから。
≪本当に!? ちゃんと覚えないとダメだよ! じゃあまた明日ね〜≫
俺になにも話させないまま、一方的に電話を切った聖羅。
…本当、相変わらずだな。
俺に突然告白して来て。
かと思えば突然別れを切り出して来て。
……なのに、俺とふつうに話そうとする聖羅はすごいと思う。
俺はすずだけじゃなくて聖羅も傷つけてんだなあと思うと、胸が痛む。
ピロン〜と携帯が誰かのメッセージを受信した音が聞こえて、画面を見ると。
また聖羅からで。
聖羅からのSNSに…すずとのプリクラが送られて来た。
「もう、覚えたって…」
きっと忘れない。
覚えた人は…忘れないはずだから。
それに…すずのことは忘れたくないから。絶対に。