キミと帰る道
『すず!』と呼び止めたいのに。
声は喉から出てこない。
俺はただ、走り去るすずの背中をぼうぜんと眺めることしかできなかった。
…情けねぇよな。
どんだけ傷つけてんだよ、俺。
でも俺は聖羅を…裏切りたくなかった。
俺が人のことを覚えられなくて、みんなから嫌われて俺がひとりになっても。
いつも隣で聖羅が笑っていた。
だから俺は…ひとりでも、聖羅がいたからやって来れたんだ。
だからこそ、あんなに突然告白して来たのも驚いたけど、断らなかった。
だけどフられたというか、別れを切り出されたときは驚いた。
でも、聖羅は…本当は別れたくなかったんだと思う。
俺がすずのことを覚えようとしていたから。
人を覚えるための一歩を踏み出そうとしていたから、応援するためにそうしたんだと思うんだ。