キミと帰る道
「…なんだよ、聖羅」
「すずちゃんのこと覚えたの⁉︎」
「……瞳と声だけ。
さっき廊下からふたりのやり取り見てて。
俺が失くした鈴がなんとか言ってたし。
それに真っ直ぐに聖羅に向けた瞳を見て、なんとなくそう思っただけ」
「…藤谷く…っ…?」
あんなに話してなかったのに。
まだ…覚えてくれてたの?
顔はちゃんと覚えてなくても。
〝すず〟のアクセントが〝鈴〟だけど。
それでも嬉しすぎて。
目からは、涙が耐え切れずにぽろっと零れた。
「ごめん…。
わ…私、帰る…!」
これがチャンスだったのかもしれないのに。
自分からチャンスを逃したのかもしれないのに。
藤谷くんにこれ以上近づかなかったのは。
……聖羅ちゃんが、私のことを思い切り睨んでいたからで。
もう遅いのかもしれないけど。
これ以上、聖羅ちゃんとの関係が壊れたくなかったから…。
嬉しいよ。
嬉しすぎるよ。
だけどやっぱり。
———藤谷くんは、私のことを覚えちゃダメだ…。