嫌われ者に恋をしました

 最初は相手が結婚していることに深く考えは至らなかった。

 でも、一緒にどこかに出かけたいと言うと、瀬川は「俺を破滅させるつもり?」と言って、出かけることはおろか、食事にもコンビニにも二人では行かなかった。

 そう言われて、自分たちの関係がいかに秘密であるかを思い知らされた。自分の立場がいかに不誠実なのかも。

 素知らぬ顔をして職場で顔を合わせることも罪悪感に拍車をかけた。

 雪菜は罪悪感に押し潰されそうな毎日を過ごしていたのに、瀬川は気にする様子もなく平然と雪菜の家に来て、周りの色んな人々の悪口を言っては楽しそうにしていた。その感覚は雪菜には理解できなかった。

 そんな瀬川に雪菜は不快感を感じていたが、それでも瀬川が去っていくことを考えると怖くなった。

 付き合い始めてすぐに瀬川は、「ピルを飲んでよ」と言い出した。子どもが出来たら困るから、と。切れ味のいいカミソリでスッと切られたような、深いとも浅いとも表現しがたい傷がついた気がした。

 でも、嫌だとは言えなかった。

 実際にピルを服用するようになったら、驚くほど生理痛が軽くなったから、これはこれで良かったのかもしれない、と雪菜は思った。

 でも、瀬川の目的は単なる身勝手で避妊具を使いたくないというだけのものだった。

 瀬川は気が向いた時に雪菜の家に来て、抱きたいように抱いたら帰っていくようになった。瀬川の言葉を最初は本気で信じていた雪菜も、さすがにおかしいと思うようになっていた。

 相変わらず口では「愛してる」とか言うけれど、本当に愛していたらきっと、こんな関係じゃない。

 でも、捨てられることが怖くて、問い詰めることもできなかった。
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