嫌われ者に恋をしました

「小泉っ!どうした!」

 勢いよく入ってきたのは隼人だった。

「瀬川?お前っ、何やってんだよ!」

「別に。ちょっと話してただけだよ」

 雪菜は頬を涙で濡らして口元を手で押さえ、髪も乱れていた。雪菜のそんな姿が隼人の苛々に拍車をかけた。

「嘘つくなよ!」

「嘘じゃないよ、本当」

「話しただけじゃ、こんな風にならないだろ。それに悲鳴が聞こえたぞ」

「へえ?ムキになるんだねえ」

 目を大きく開いてニヤニヤする瀬川を、隼人は睨みつけた。

「ふざけるな」

「松田、女にあんな甘い顔すんのは美生ちゃん以来だろ?」

 隼人はすぐに答えなかった。

「何が言いたいのか、わからない」

「別に。言いたいことなんてないよ。なんか、お邪魔みたいだから失礼するよ」

 瀬川はヒラヒラ手を振ると、扉を開けて出ていった。バタンッと扉が閉まった途端に室内は静まり返って、空調の音だけがやけに大きく聞こえた。

 雪菜は急いで涙を拭うと、髪を結い直した。

「泣いてたの?」

 雪菜はうつむいた。隼人は雪菜の正面にやってくると、じっと雪菜を見た。

「あいつのこと、まだ好きなの?」

「違います!」

 雪菜は勢いよくそう言って隼人を見上げた。
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