嫌われ者に恋をしました
「あいつに何された?……キスされた?」
唇は触れたけど、あれをキスとは言いたくない。雪菜は唇を結んでうつむいた。
「あいつ、許せねーな……」
隼人はそうつぶやいて、雪菜の頬に触れた。触れた手が想像以上に大きかったから、雪菜は一瞬息を止めた。隼人は親指で涙を拭うように頬をなぞると、そのままスウッとあごの下に手を持っていき、雪菜の顔を上に向けた。
されるがまま雪菜は隼人を見上げた。そこには怒っているとも悩んでいるとも見える複雑で切ない瞳があって、目が離せなくなった。
「あいつに取られた分、取り返したい」
そのセリフも息遣いもすぐ目の前に感じる。ドキドキして息ができない。私、期待しているなんて……。
「いいの?嫌だって言わないと、いいと思うって言っただろ」
「……」
「嫌じゃないのか?」
雪菜は息を絞り出すように、小さく震える声で言った。
「……嫌じゃ、ない、です」
そう言った途端、押しつけるように唇がグッと重なった。薄いと思っていた唇は意外と柔らかくて、でもその感触は一瞬で、すぐに離れてしまった。
もう少し長く触れていたかったのに、と思って隼人を見上げると、隼人は安堵したような優しい瞳で見ていた。
「もう一度してもいい?」
嬉しくて胸がキュッと痛くなった。じっと見つめ合ったまま雪菜が小さくうなずくと、隼人は両腕で包み込みこむように雪菜を抱き締め、今度はゆっくり唇を重ねた。