嫌われ者に恋をしました

「あいつにキスされたこと、忘れられた?」

 雪菜はうなずいた。言われなかったら本当に忘れていたくらいだった。うなずいた雪菜を腕の中に感じて、隼人は腕に力を入れた。そうやってしばらく抱き締めていたが、隼人は静かに息を吸った。

「心配で一人にできないよ」

 雪菜は隼人の胸の中で小さく身じろいだ。

「小泉……」

 腕の力が緩んだから雪菜は隼人を見上げた。隼人はやっぱり優しい目をしていた。

「……雪菜」

 雪菜は瞬きをして大きく目を開いた。さっき瀬川に言われた時とは明らかに違う響きに聞こえた。

「って呼んでいい?」

 雪菜はうなずいた。

「……好き、なんだ。俺のそばにいて、雪菜」

 少し赤く見える隼人なんて、見たことがなかった。雪菜は子どもみたいにじっと見上げて、ただうなずくことしかできなかった。

 雪菜がうなずいたのを見ると隼人は微笑んで、もう一度雪菜を腕の中に閉じ込めた。今度は少し力を込めて閉じ込めた。

「……絶対に、離さないから」

 雪菜は隼人の胸に頬を擦り寄せた。
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