嫌われ者に恋をしました
「遠回りなのに、今日も送っていただいてすみませんでした」
「いいんだよ、俺が来たかったんだから」
「……では、失礼します」
「うん、おやすみ」
隼人が手を離すと、雪菜は一瞬じっと見上げて黙り込んだ。
「どうしたの?」
「い、いえ。おやすみなさい」
雪菜は階段を駆け上がっていった。また、部屋の前で一礼したから、前と同じように隼人は手を振った。
さっきの一瞬の沈黙は何だったんだろう。手が離れて寂しくなった?部屋に入りたい、とか言えばよかっただろうか。でも、そんなこと急に言われても困るだろうし、などと思いつつ、隼人は家路についた。
携帯の番号もアドレスも聞けたから、会えなくても連絡はとれる。なんか、声を聞きたくなって電話してしまいそうな気がする。
電車の中でスマホを取り出すと、雪菜からメールが入っていて嬉しくなった。
『今日も送っていただいてありがとうございました。行きたいところですが、子どもっぽくてもいいのでしょうか?』
子どもっぽいとはどういうことだろう?動物園とかだろうか。
『どこでもいいよ』
隼人がそう送ると、すぐ返信が来た。
『ありがとうございます。考えておきます』
雪菜はやっぱり真面目だな、と思った。真面目というか堅い。雪菜はもともと堅いのかもしれないが、やっぱり距離を感じる。隼人は小さくため息をついた。