嫌われ者に恋をしました

 まだ始まったばかりだし仕方がない。雪菜が堅いのは、俺が上司だからというのもあるだろう。

 でも、あの無表情な雪菜が微笑んでくれるんだから、かなり良好と言える。手だって繋いだし、キスもしたんだ。照れて困る雪菜の顔を知ってるのは俺だけなんだ。あ……いや、瀬川もか。

 イラッとしたらつい癖で胸ポケットに入れた煙草に手が伸びた。

 ダメだダメだ。やめると約束したから、必ず守る。

 帰り道、途中の薬局で禁煙サポートガムを買った。本当に絶対にやめよう。

 自分の主張なんて滅多にしない雪菜がやめてほしいと言ったわけだし、自分も誓った。正直なところ、食後はかなり吸いたくなったが、目の前の雪菜を見ていたら、気が紛れた。

 隼人はポケットに入っていた煙草の箱をゴミ箱に投げ捨てた。

 本当に絶対にやめる。

 家に帰ってから、家中のライターをかき集めたら何十本もあって山積みになってしまった。どうしてライターってこんなに増えるんだ?

 だいたいライターって何ゴミなんだろう。燃やしちゃまずそうだし。よくわからない。明日実家に行って、悠人(ゆうと)にでも押しつけるか。

 隼人は全てのライターを台所で見つけたお菓子の缶の中に押し込めて、もう吸わないと念じるように蓋を閉めた。
< 117 / 409 >

この作品をシェア

pagetop