嫌われ者に恋をしました

「野球ですか?今のイメージと違いますね」

『だろうね』

「野球部の時の写真、見てみたいです」

『絶対ダメ』

「どうしてですか?」

『どうしてもだよ!雪菜は高校の時、何をしてた?』

「私は何も」

『帰宅部ってやつだ』

「そうですね」

『じゃあ、帰宅部の写真を見てみたい』

「……写真はありません」

『そんなわけないだろ?見せたくないからって嘘はダメだよ』

「嘘じゃありません。本当にないんです。……卒業アルバムはあったかも」

『ふーん……、じゃあそれ見たい』

「……それは、野球部員と交換です」

『うーん、仕方ないね。交渉成立』

 卒業アルバムなんて、どこにしまっただろう。そう思って押し入れを眺めながら、こんなに自然に話せている自分に驚いていた。

 ミノリちゃんと話す時とはまた違う高揚感。

 私、気負わないですんなり話せているけど、今話しているこの人は私の彼……なんだ。そう思った途端、電話の向こうの声がくすぐったく感じた。

 最初は怖そうだと思っていたけど、本当は優しくて、時々怒ってしまって、守ってくれる頼もしい上司で。最初あんな言い合いをしてしまったのに、今日はキスをして抱き締められた。思い出したら胸がキュウッと痛くなった。
< 119 / 409 >

この作品をシェア

pagetop