嫌われ者に恋をしました
「これから、よろしく」
隼人がそう言うと、雪菜はフッと顔を上げてから、深く頭を下げた。
「はい。よろしくお願いします」
その所作も律義な感じ。いつも一歩離れて、静かに控えている感じ。その動きは、どこまでが本当なんだろう。
雪菜が監査担当に来た最初の日は机の片付けと資料の整理で終わってしまった。
幸い資料室の棚の一角を借りることができたから、今までの資料を二人で整理して資料室にしまった。
資料の整理にしても、雪菜は背表紙に丁寧に文書分類のラベルを付けて、日付順に分かりやすく並べていた。こういう作業は面倒くさいから、指示しないと手抜きをする輩が多い。指示がなくてもきちんと仕事をこなす雪菜を見て、来てもらって良かったと隼人は感じていた。
近くで見る雪菜は、真面目で律義で地味な印象しかなかった。それなのにどうして……。隼人には拭えない疑問があった。
隼人は雪菜の秘密を知っていた。
この子だって所詮はそういう女なんだ。普段は猫を被っていても、本性は不真面目でチャラチャラしているに違いないと内心疑っていた。
でも、今のところそんな様子はなく、普段の生真面目な雪菜と雪菜の秘密とのギャップが、隼人にはどうしても理解できなかった。