嫌われ者に恋をしました
隼人は電話の向こうで突然起こった緊急事態に混乱していた。雪菜は手を下に降ろしてしまったのか、声が遠くに聞こえる。
瀬川が部屋に入ってきた?あえぎ声でも聞かせてやれ?頭が沸騰しそうだ。……あいつ、とんでもない鬼畜じゃないか。
「雪菜!逃げろ!雪菜!聞こえるか?」
『きゃあっ、やだあ、イヤ!イ……』
切れた……。
何も聞こえなくなった電話をじっと見つめて隼人はハッとした。
急がないと!
何も考えないまま外に出た。雪菜の家まで車で20分くらいだろうか。さっきビール飲まなくて良かった。飲もうと思って冷蔵庫から出したところで騒ぎになった。
自分の車に乗るのは久しぶりだった。時刻は夜11時。街に出ると、時間が遅いせいか道路は空いていて、人通りもまばらだった。
どうせ間に合わない……。さっきの瀬川が言った言葉が聞こえてきた。本当に間に合わないかもしれない。
間に合わなったらどうなる?ねじ伏せられた雪菜のあられもない姿なんて、絶対に見たくない。そんなの耐えられない。……雪菜だってそんなの俺に見られたくなんかないだろう。
「頼むから、逃げてくれ……」
隼人はため息をついて、思わずつぶやいた。