嫌われ者に恋をしました
隼人が頭を下げると、小太りの店主は意気揚々と喋りはじめた。
「いや、もう驚いちゃったよー。お嬢ちゃんが駆けこんできたと思ったら、変な男が追いかけて来て引っ張り出そうとしてさあ。お嬢ちゃんは泣き叫ぶし。『かあちゃん!警察!警察!』って言ったら、男が出て行ったから良かったんだけどねえ」
すると、「かあちゃん」らしき店員も奥からひょっこり顔を出した。
「あらあ、お迎え来たの?良かったねえ」
似た者夫婦、というのだろうか。同じような小さくて太った体型、同じような温厚な笑顔。ここは家族経営のコンビニなのか……。
「彼氏ならスリッパなんて買わねえで、抱っこして連れていけばいいのによお」
「え?」
そうすれば良かった、と思ってしまった。
「やめてよ、せっかくのお客さんなんだから。うちの売り上げ、考えてから言いな!」
店主は「かあちゃん」に怒られて、ヘヘッと反省感なく笑った。
考えてみたら、警察だって俺が呼べば良かったんだ。全く考えが至らなかった。焦っていたとはいえ不覚。雪菜が無事だったから良かったが、無事じゃなかったら後悔してもしきれなかっただろう。