嫌われ者に恋をしました
車の助手席のドアを開けて、雪菜に乗るように促した。
「課長の車、ですか?」
「そうだよ。滅多に乗らないけど。……とりあえず、雪菜の家に戻ってみようか?」
「……はい」
運転席に乗り込んで横に座る雪菜を見たら、改めて自分の手元に戻ってきた感じがして、もう一度安堵した。
雪菜がこっちを見たから、キスしてしまおうかと思った瞬間、明るいコンビニの中からあの似た者夫婦がこちらを見ていることに気がついて、ハッと身を引いた。
隼人は夫婦に向かってもう一度ペコッと頭を下げて、車を出した。夫婦が嬉しそうに大きく手を振っているのを見て、雪菜は小さく手を振り返した。
「課長、ここまで来てくださって、本当にありがとうございました」
「いや。逃げられて本当に良かったよ」
「はい。……課長と電話していたから、逃げることができた気がします」
「え?」
「逃げる勇気をもらえた気がするので……」
「そっか、……それなら良かった。でも、もうそばにいるから、大丈夫だよ」
「はいっ」
雪菜は隼人を見てふんわり微笑んだ。運転しながらチラッと横目で見ただけだったが、その笑顔はものすごくかわいくて、思わず唾を飲んだ。
誰にも見せたくない。このままどこかに閉じ込めてしまいたい。この雪菜は俺だけの雪菜。気持ち悪くなるくらいの独占欲が湧きあがってきた。
声が聞きたくなってつい電話をしてしまったが、電話をして本当に良かった。今頃、雪菜が瀬川に抱かれていたのかもしれないと思うと、喉が焼けるように痛くなって、奥歯をグッと噛み締めた。