嫌われ者に恋をしました
「そういえばさ」
隼人がふと話しかけてきた。
「二人でいる時は課長じゃなくて、名前で呼んでよ」
「え?」
「会社では課長だけど、今は違うから」
「え?えっと、はい……」
「名字じゃなくて名前だよ」
「ええ!」
そう言われてもなかなか難しい。
「くだらないかもしれないけど、そんな小さなことでも雪菜を近くに感じたいんだ」
そんなことを言われたら、頑張るしかない。
「……松田さん」
「それは名字だから。名前で呼んで」
「ええっと……、は、隼人さん」
雪菜はうつむいて早口に言った。
「本当は『さん』も付けてほしくないんだけど仕方ないかな」
そう言って隼人は笑った。
名前を呼んだだけなのに、こんなにドキドキするなんて。名前を呼んだだけで、確かに距離が近づいたような気がした。
照れて窓へ顔をそむけた雪菜の視界に、横浜の夜景が飛び込んできて息を飲んだ。すごく綺麗。テレビでしか見たことがない景色。
雪菜が「わあ」と目を見張っていると、そんな雪菜をチラッと見ながら隼人が言った。
「今日は夜中だから、もう暗いね。本当はもっと明るくて綺麗なんだ」
「そうなんですか?」
雪菜には隼人が言うように暗くなんて見えなかった。この夜景でも十分明るくて綺麗に見えた。
「また今度来よう?もう少し早い時間に」
「……はい」
また来ようと言ってくれた。また次があるなんて、本当に嬉しかった。