嫌われ者に恋をしました
「じゃあ、名前で呼んで」
「……それはまた、次の機会にチャレンジします」
「ダメ。今呼んで」
そう言って隼人が近づいてきたから、雪菜はますますドキドキしてパニックになった。
「そ、そんな急には……」
「嫌なの?照れてるの?」
「て、照れているのですっ」
焦ってまたおかしな言葉遣いになってしまった。でも、この言葉遣いに甘えるとなぜか思ったことを言えてしまうような気がした。
「かわいいな。じゃあ照れながらでもいいから呼んでよ」
かわいい……。そんなことを言われて嬉しい。でも、課長は名前で呼ばれることを諦める気はないみたい。頑張るしかないのかな。
雪菜はギュッと目を閉じて、両手を膝の上で握り締めた。
「隼人さんっ」
「フフッ、ありがとう。でもそんなに緊張すること?」
隼人は雪菜の頭を撫でた。
「はい、緊張するのです」
「……緊張しすぎて少しおかしくなった?」
「少しおかしくなったかも、なのです」
「あはは、ごめんごめん。そんなに緊張させるつもりはなかったんだけどね。じゃあ、俺んち行こう?」
雪菜はハッと顔を上げた。そうだ、このまま車の中にいるわけにはいかないんだ。課長の家に行くんだから。
車から降りようと、車高の高さに手こずっていたら、隼人がまた手を差し出してくれた。
こんな紳士的なところもキュンとする。車の乗り降りに手を貸してくれるなんて王子様みたい。でも、この後の展開を考えると、どんどん気持ちは憂鬱になっていった。